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ワイルドライフのTEPPEIのレビュー・感想・評価

ワイルドライフ(2018年製作の映画)
4.7
名カメレオン俳優のポール・ダノの初監督作であり、「ルビー・スパークル」で共演して以来プライベートでも交際しているパートナーのゾーイ・カザンと脚本・製作を担当した「ワイルドライフ」。初監督作とは思えないほどの絶賛評とともに、同名小説を食い入るように読み込んで念願の映画化となった本作は見事にある家族の崩壊と再生を描き切った。

リチャード・フォードの同名小説を映画化した本作。舞台は1960年代で、モンタナ州に移り住んでいた3人家族のブリンソン一家を描く。序盤はフレームにも収まる順風満帆、幸せな家庭が描かれていくとともに、アルコール依存をやや匂わせ、自暴自棄な側面を併せ持つジェイク・ギレンホール演じるジェリーとその妻ジャネット。モンタナの片田舎で質素な生活を送っていても、勉学に励み、反抗的な態度すら取らない愛息子のジョー。映画の大半はジョーからの視点で余計な台詞を伐採した、細かな演出が光る。しかもその演出が不快であったり、重苦しかったり、胸を締め付ける瞬間もある。山火事の消火隊に志願したジェリーはしばらくの間、家族のもとを離れ、ジャネットはひとり身となる不安と疑心で暴走気味に。そこから徐々に家族に亀裂が入り始め…というのが大まかなあらすじ。
モンタナ州の美しい映像と空気すら感じ取れる透明感、さらには家族からのワイルドライフー「野生動物」へと拡散される崩壊の映像表現と、巧みなショットだけでなく、自然な会話でのセリフの掛け合いも眼を見張るものがある。
そしてこぞって声が出ているキャリー・マリガンの圧倒的な変貌と演技力。キャリア史上最高の演技という声は全く過大評価ではない。暴走と崩壊と不安と、表情や仕草の変化と難しい役どころを最後まで演じている。もはや演技上手すぎなジェイク・ギレンホールの哀愁漂う父親像なんて文句なしだし。
14歳のやるせない思春期の少年を演じたエド・オクセンボールドまで最後まで雰囲気を損なわず、静かな成長という部分を上手く醸し出していて惹かれるものがある。

原作に惚れて自費で権利を購入し、クリエイティブかつ自由に製作できたと語る監督のポール・ダノは悲しい過程のなかで描ける愛や素直さに惹かれて、本作を製作開始。ゆえに資金調達や製作自体が相当な苦労だったようだが、見事に最高の映画監督デビューを飾ったと言っていい。
脚本も共同で手掛けたゾーイ・カザン。非常にいいコンビ。
総評として「ワイルドライフ」は美しい映像と俳優たちの見事な演技加えて、ポール・ダノの秀逸な演出が光っていた秀作。
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