きよぼん

泥棒役者のきよぼんのレビュー・感想・評価

泥棒役者(2017年製作の映画)
3.7
これだけ泣いたの久しぶり。

とはいっても、映画の中盤あたりまでは「これは微妙だぞ・・」と感じてました。泥棒が、自分のことを勘違いしている相手にウソつきまくる会話劇。のはずが、これがイマイチ面白くない。ちょっと会話が面白くなってきたと思ったら、すぐに場面転換します。飽きさせないようにという工夫なんでしょうか?原作は舞台だということだけど、舞台とちがって空間と時間を自由に操れるのは映画の長所。ですが、お話が立体的になってるのはいいんだけど、舞台の良さが損なわれてるというか、もっと会話劇みせてよー!という不満がありました。

会話劇として面白くない理由のもうひとつが、主人公・大貫の頭の回転がよろしくない。相手が「もしかして童話作家の先生ですか?」「この家のご主人様では?」「新しい編集者っていうのは君か?」勘違いするたびに「そうですー!」って言って相手のウソに乗っかるだけ。こちらからウソをしかけることもないし、大胆な行動に出ることがない。終始おどおどしっぱなし。こういう会話劇ってウソをつく側の頭のキレの良さみたいなのを観たいっていうのもあるんだけど、その点は全くない。だからこの映画「微妙だなー」と思って観てたんです。

でも、それちょっと勘違いだったんです。

映画が進んでいくと、この主人公・大貫はウソをつかないんじゃなくて、ウソをつけないほど人がいいやつなんです。自分のことだけを考えるなら、もっと大胆にウソをついて逃げればよかった。でもそうすることもできないくらい小心者で真面目。そんな彼が過去に間違いを犯したとはいえ、不幸になるなんてことがあってたまるもんか。正直に生きようとしてる人間にはいいことがおこるべき!これは人としての自然な感情。これが嘘つきまくるほど頭が良かったらここまで感情移入できなかったです。中盤以降はそんな彼の姿に引き込まれました。大貫を演じた丸山隆平も人の良さが素晴らしく表現できていたと思います。

童話作家、セールスマン、編集者、それぞれの立場があり、葛藤をかかる人間たちが丸山を巡ってひとつの奇跡にたどりつきます。役者陣の好演とさわやかな物語。「いろいろあるけど、また明日からがんばろう!」見終わった後にそう思えたこの映画は間違いなくいい映画。
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