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劇場版 嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~/リチャード二世のろのレビュー・感想・評価

4.5
「心の安らぎは天にある。我々はこの地上にあり、ここに生きているのは苦しみや悩み、嘆きばかりだ」

4月。
初めてシェイクスピアを読み、どっぷりハマりました(笑)
シェイクスピアは言い回しが難しくて慣れるのにちょっと時間がかかるけれど、詩的で繊細な言葉遣いにうっとりします。
それが今回劇場で観れるなんて…!うれしいー!

原作を読んでからレビューを書こうと思っていたので、4月半ばに観たのに気付けば5月に入ってしまいました(笑)でも読んで良かった!原作に忠実に制作されているのがよく分かったし、映画の場面が思い出されて楽しかったです。


この「嘆きの王冠」は7作品からなるシリーズ。
さすがに7作品すべて観る根気はないので(笑)ベンウィショーの「リチャード二世」とカンバーバッチの「リチャード三世」(大阪では5月公開)を観に行くことに。


リチャード二世を演じるベンウィショーの圧倒的存在感!素晴らしかったです!!!つかみどころのない、どこか浮世離れした王のキャラクターがベン様にぴったり。
鑑賞中、全く気が付かなかったのですが、X-MENシリーズのパトリックスチュワートや名探偵ポアロドラマシリーズのデヴィッドスーシェも出演していましたよ。


〈あらすじ〉
イングランド国王リチャード二世(ベンウィショー)は、従兄弟のヘンリー(のちのヘンリー四世)を追放した挙句、その父ジョン(パトリックスチュワート)の財産を没収する。しかし、復権を狙って戻ってきたヘンリーに王位を奪われ、リチャード二世は…。

まず、私はこの物語のあらすじを読んだときに「リチャード二世は可哀想な王様だったのかな?」と思っていました。
ところがどっこい、何とも自分勝手でハンパないダメ王っぷりを発揮していた・・・(笑)

リチャード二世は贅沢三昧の生活を送っていた。
戦争の費用が足りないときは、裕福な貴族から金を搾り取る。
そんな王に家臣たちもあきれ返る。そして陰でこんなウワサをされるように…。
「王は自分を見失い、バカなおべっか使いたちに振り回されている」
「重税を課すから民衆の心も王から離れてしまった」
「ご先祖が戦争で使った金より、王が平和な時に使う金の方が多いのだ」

リチャード、ほんとすごいんですよ。
自分勝手で、貧しいものを見下し、豪遊している。物語の中では言及されていませんが、彼は政治や経済に疎くて、王として国を統治することに向いていなかったんじゃないかなぁ。


物語の冒頭、リチャード二世は従兄弟のヘンリーに国外追放を言い渡します。
それはリチャードの家臣を謀反人扱いしたためです。
ヘンリーの国外追放中、彼の父であるジョンが亡くなります。
アイルランドへの遠征費が必要だったリチャードはジョンの財産をすべて没収。
息子であるヘンリーには何一つ残されない状態になってしまいます。
それに怒ったヘンリーは帰国。自らの権利奪還を求め、兵を挙げます。
そんな彼に賛同し、リチャードの家臣たちも次々と寝返る。
リチャードはすっかり孤立してしまいました。

イングランドの海辺で嘆くリチャード。
「こめかみをぐるりと囲む虚ろな王冠の中は、死神という道化が君臨する宮廷だ」
ヘンリーに王座を譲ることになったリチャードは、その悔しさから自虐的に叫びます。
「リチャードの夜から、ヘンリーの晴れ晴れとした昼へ!」
彼が砂浜に書いた「RichardⅡ」の文字が、波に静かにかき消されていくのでした。

もう、この場面がすごい好きで。やっぱり紙の上だけでなく、映像にするとより威厳が出るし、何といってもリチャードの人間臭さと神々しさの共存が素晴らしい。いでたちは神っぽいのに、家来の一言に一喜一憂する姿なんて人間らしさ満載。
彼が書いた自らの名前を波がさらっていくカットは鳥肌が立つほど美しかった。あれは劇場で観て良かったと思った瞬間でした。


ヘンリーに王冠を手渡す場面。
リチャードは王座への未練から、なかなか王冠を手放せません。
そんな彼に痺れを切らして、ヘンリーが一言。
「王位譲渡にご異存は?」
煮え切らないリチャードは言います。
「ない、ある。ある、ない。私は何者でもない者になるしかないのだから。従って、「異存がある」 はない。そなたに譲るのだから」

この場面のリチャードは駄々をこねる子どもみたい。いやいや、可愛すぎかってツッコミながら鑑賞。
優柔不断なリチャード。ヘンリーに王冠を渡す渡さないのやり取りが続く。
観ているこちらもヤキモキ。
王冠渡すんかい!渡さへんのかい!
いや、転がすんか~い!!!
リチャードが転がした王冠はヘンリーの足にナイスヒット~。
いや、もう面白すぎる…確実にリチャードはツッコミ待ちやったよ…誰かツッコんであげて…。


リチャードの最期。
塔に幽閉されているリチャードのもとに暗殺者が。
ボロ布をまとい、細く痩せたリチャードの体に、いくつもの矢が刺さります。両手を挙げて、目を見開いた彼の姿がスローモーションで映る。
まるでキリストの絵画のような1カット。
残酷で哀しい最期なのですが、とても美しい。(ベンウィショー効果かな?笑)

哀しさと美しさを兼ね備えたリチャード二世。
おバカな一面もご愛嬌。
ベンウィショーが魅せてくれました。

「いまの私には弦の調子が狂ったのを聞きとがめる良い耳があるのに、私の王国と私の人生に関しては不協和な音を聞き分ける耳がなかった。私は時を浪費した。そして今、時が私を浪費している」
ろ