ベルサイユ製麺

50年後のボクたちはのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

50年後のボクたちは(2016年製作の映画)
3.3
ドイツ映画。大ベストセラーが原作。

夜の自動車事故現場、血塗れの少年。主人公マイクの回想で物語はスタートします。
マイクは転校して日が浅いのと、アル中の母譲りのちょっとズレた普通感覚の為にすっかりクラスから浮いてしまっています。どのくらい浮いているかというと、大好きなクラスのNo. 1美少女(※ドイツ的美意識注意!)タチアナからのパーティの招待状をほぼ唯一貰えていない程に!
ある日、クラスに転校生がやって来ます。自称ロシア系。実際はモンゴロイドぽい見た目で、長めの前髪以外は刈り込んだ奇妙な髪型の、図体がでかい少年チチャチョフ。無愛想でダルなムードで、常に酒臭い!マイクはチチャチョフを避けますが、何故かチチャチョフは彼にだけフランクに話しかけて来ます。「そのスカジャンまじでカッコいいな」とか言って。ある夏の日。豪邸で一人留守番のマイクの元に突然チチャチョフが現れます。オンボロの青い車に乗って。
テレビゲームや、バカ話、何よりタチアナのパーティの招待状を貰えなかった同士として2人は意気投合?し、オンボロカーで旅に出ます。目的地はチチャチョフの親戚が住む街ワラキア。走れ!漠然と東へ!!

ゴリゴリのジュブナイル物のロードムービーです。旅は行き当たりばったりで、地図も無い。スマホも捨てた。缶詰有るけど缶切り無い。冷凍のピザは、…蹴っとばせ!コーン畑を突っ切って、ガソリンは無いけどホースが有れば…って感じです。
マイクのキャラクターは、ナイーブ&ややマイペースという紋切り型の青春物の主人公といった風ですが、チチャチョフの方がかなり強烈!二日酔いでクラスメイトの机に嘔吐したり、上級生を耳打ち一つで黙らせたり、盗みも暴言も日常といった感じで、正直最初は結構不快感が大きいです。でも、暫く彼らと旅を続けているうちに、チチャチョフじゃなきゃダメだったんだなぁと思わされます。寧ろ、自分の青春時代にはチチャチョフが足りなかった、とすら。もっと暴れれば良かった。もっとちゃんと傷つけば良かった。あれやこれや。
旅路の後半、ホームレスの女の子と出会い、ハードコミュニケーションを交わすうちにいつしか彼女も仲間に加わります。出会い、冒険、友情、恋(性)。ひと夏に詰め込めるもの全部詰めた。そしたらやたら眩しくなった。ずるいなぁ。こんなの嫌いになれないよ。

惜しむらくは、ドイツ映画の独特の空気感、バランス感(有り体にいってちょっとダサい)のせいも有り、ちょっと没入度が上がり切らなかった事ですが、まあ好みの問題だとも思います。ラストのモノローグと回想シーンで、彼等の旅路の行く末はうんと先まで、うんと広くまでを射程に収めたと感じました。
個人的にはリチャード・クレイダーマンの使い方が謎で、これからアレ聴くたびにニヤニヤしてしまいそうです。でも、同時にきっとちょっと胸が痛むんだ…。迷子になろう。道端で寝よう。酒でうがいをして、湖で行水しよう。たまたま出会おう。ボロを纏い奇声をあげよう。デタラメな約束一つ、今は笑って別れよう!
良作です。夏の終わりに是非。