このレビューはネタバレを含みます
身の丈に合わない精神年齢を持つ2人の大人の青臭い恋愛映画、といった感じ。
さよならみどりちゃんと似たような感じで全く共感できないのかなと思いきやこちらは普通に楽しめた。
ツチダは自分が彼氏を腐らせていることに気がつかずに彼氏に尽くすことに酔いしれ、セイイチは商業的な音楽を全否定して燻っている。
相手のことを思っているつもりが自分の事しか考えられていない、精神的な幼さ故に生じるこの矛盾こそが好きだけど別れを選ぶという結末を生み出したんだろうなぁなどと感じた。
この映画に胸を打たれる人は精神的に大人なんだと思う。こんなに複雑な感情の変化に振り落とされないのだから。自分は言葉にするのが精一杯で、胸を打たれるほどの感動を感じることができなかった。
全体的に静かなトーンで話が進むが、会話やキャラクターのパンチで移入できない人でもそれなりに楽しめる。
冒頭のミクロ視点の演出は最近面白い映画でよく見るが、この映画に関しても凄く効果的に作用していたように思う。生活感を全面に押し出しながらも色彩やリズムで興味を引き、その後の淡々とした本編に幾つかの布石を用意していた。
この映画のリアリティの一端を担っていたのはキャラクターの演じ分けだと思う。普段、人は誰しも相手によって自分を演じ分けているが、そのニュアンスが凄く出ているなと冒頭10分で驚いた。キャラクターを記号化せず、奥行きを想像させる観察眼が凄い。特にセイイチの、ツチダとバンド仲間の前での性格の違いは顕著だなと思った。
「どっちかと別れたら必ず後悔するから両方振りなよ」みたいなカナコのセリフにはハッとした。なるほど…
セイイチの歌、からの静かなエンドロールの流れは、そこから見始めても見入ってしまいそうなくらいよかった。