そこに向かうまでの道のりは苦しくて時に涙がでてくるほど悔しい思いもするけれど各々がその職務を全身全霊で全うするという筋立ては池井戸作品ならこれしかないというワンパターンではあるけれどもスッと胸のすくもので何度見てもああいいもんみたなって思う。
三菱自動車のリコール隠しをベースにしたストーリーでタイヤ脱輪事故を運送会社の整備ミスとした財閥系大企業の不正を暴いてゆく。運送会社社長の赤松、ホープ自動車の沢田、ホープ銀行の井崎、それぞれがそれぞれのやり方で戦い尽くしそしてまた自分の職務に戻ってゆく。この自分の職務に戻ってゆくというのがミソでここが池井戸作品の真骨頂。自分の務めている会社に絶望して会社辞めるってひとはほとんどいなくてむしろ会社が好きで好きでたまらない感じすらある。自分の与えられた場で精一杯の自分のできることをする。裏を返せばできないことはしない。できることのみに知恵を振り絞って蜂のひと刺しをしかけてくる。ホープ自動大阪営業所に左遷された杉本とか沢田との橋渡しをした車両製造部課長小牧とか同族とはいえ安易な融資をしない選択をとったバンカー井崎、雑誌記者の榎本、あと池井戸さんなら必ずでてくる新しい融資をしてくれる心あるバンカーの存在。細い、時には切れそうになる互いの糸が寄り合わさって悪徳巨大企業の首をジワジワしめてゆく様はスタンディングオベーションもの。ただ2時間という時間ですべてを描ききるには足らずたとえ同族であっても融資をしないとはねつけた井崎の働きが十分に描き切れていなかったのが残念。どんな知恵を巡らせて銀行内で戦ってきたのか知りたかった。雑誌記者の榎本との関係もなかなかよかった。
それにしてもタイトルが秀逸ではないか。字面の滑稽さと心にガリッとひっかかる奇妙な感覚が渾然一体になっているというかなんだろう見てみようって気になる。
テレビ版視聴後に感想を追加。
映画版には勢いと圧倒的華やかさがある。イケメン揃いなのが残念みたいなレビューを読んだが俳優なら誰でもというわけではない。この華やかさはなかなか出せるもんじゃないと思う。信念を持って戦ってきた長瀬智也とディーンフジオカというツートップのエンディングは震えるかっこよさ。あとムロツヨシが存外に良い。こういうエリートサラリーマン役は意外とやってこなかったのではないか。コミックリリーフ的な役が多い中でただ純粋にお芝居が上手いひとなんだなぁと感じた。
