カルダモン

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のカルダモンのレビュー・感想・評価

3.9
第二次世界大戦時、イギリス首相に就任したウィンストン・チャーチルをゲイリー・オールドマンが演じる。
アカデミー賞をはじめ各映画賞で主演男優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している本作。以上の情報が頭に入っていても、最初から最後までウィンストン・チャーチルとして見ることができた。これはノリノリでチャーチルに入り込むゲイリーと、辻一弘氏による自然なメイク術の結果なんだろう。喋り方も拘っており、当時の演説を聞き直してみると再現度がとても高いことに驚く。ほとんど演説と表情で見せる映画といってもいいほど、かなりソリッドにウィンストン・チャーチルの人物像を掘り出していた。

まるで密室劇のように外の世界とは隔絶した前半。市民の顔は車の窓から見える僅かな瞬間だけ。いつも通りの人々がいつも通りの生活をしており、とてもイギリスが窮地に立っているとは感じられない。
しかし対岸フランスのダンケルク、カレーの戦況が伝わるたびに、チャーチルの顔つきや目つき、話し振りに陰りが見え始める。タイピストへ伝える言葉もそぞろで覇気はない。刻一刻と日付が進むにつれ、もう潮時だろうと、チェンバレンやハリファックスと同様、心の中で和平交渉を望んだ。

雨の中、車の窓から見える市民の顔は以前とはまったく異なって映る。横移動のカメラが捉える街の姿に、チャーチルと同じく居ても立っても居られない感情に襲われた。心の中ではハリファックスとチャーチルがせめぎ合っていたが、地下鉄で視界が変わる瞬間、もやもやとしたチャーチルの表情に火が宿る。同じ車両に乗り合わせた人たちの信頼を目の当たりにしたチャーチル。彼らのひとりひとりと顔を合わせ「君の名は?」と問いかける。

風前の灯火が大きな炎となるような力強い演説を聴きながら、チャーチルの葛藤を抱えていた表情を思い返した。
旗を掲げるのは人間。人間味が必要だと。

https://youtu.be/U_LKAUkM0Io