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ファースト・マンのRのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.5
素晴らしい!!! デイミアン チャゼル監督の作品は、セッション大好きやけど、ララランドは(面白かったけど)印象薄め、て感じなので、本作は結構な長さもあるから見るの躊躇してたけど、めちゃくちゃよかった!!! セッションもう一回見て、本作とどっちの方がより好きか確かめたい意欲が出てきた! そのくらいよかった!!! 言わずと知れたthe first man to walk on the moon ニール アームストロング。いろんな問題がありながらも、彼が月面を歩くまでに至る過程を、安易なドラマ性を排して、ストイックに、淡白に、しかし切々と描ききった本作。ニール アームストロング自身が、誰に対しても感情を表さず、ただひたすら冷徹と言えるほどの落ち着きとフォーカスで宇宙飛行士を志している様を、そのまま映画全体のトーンとして落とし込んでるような鉄壁さ。その空気感は、ザラザラした昔っぽい映像なのもあって、荒涼とすら感じられる。彼は自分の身に起こる最大の悲劇と対峙したときでさえ、誰にも、妻にさえ、心を打ち明けない。ただひとり静かに涙する。その悲しみをどう消化するのか、観客に読ませることなく、ただただ無心に宇宙飛行士としてのトレーニングを積んでいく。もともとテストパイロットとして有能だった彼は、死をも恐れぬ静かなる胆力を発揮し、ジェミニ計画からアポロ計画へと着実に進んでいく……同時に、これは彼と彼の家族との関係を描いたファミリードラマでもあり、人間的ドラマのほとんどはNASA内部でなく、ヒューストンに移住した家族との関係を通して描かれる。しかし、先にも述べた通り、家族に対してもアームストロングは感情をあらわにしない。命の危険のあるプロジェクトに参加している彼の身を、誰よりも案じているのは、ニールではなく、彼の妻ジャネットだ。ジェミニ計画遂行時には、NASAと夫とのやりとりが聞こえるように、通信機をお家に置いて、気が気でない様子でそれを聞いているジャネットのつぶらな瞳は印象的だ。ジャネットを演じるクレアフォイが、常に命をリスクに晒す仕事にコミットする夫の嫁の苦悩を、普通のアメリカ家庭の妻と同じように消化しようとして、全然しきれない様子をとてもリアルに演じている。その思いが爆発して、あんたらのやってることはおもちゃ遊びと同じようなもんよ!と叫ぶシーンは、んー確かに。と思わされる。折しも、アメリカとソ連の対立する冷戦下では、どちらが宇宙開発で相手を抜きん出るかを競い、ソ連がリードしていた。彼らの計画で命を失った犠牲者もいる。国内では、宇宙開発の費用を国民の生活のために回せ、とごもっともなデモが起こっている。本作を見る限り、宇宙の旅でイメージする栄光なんて皆無だ。とりわけ、前半のロケットの中のシーン。えええええ、こんなアナログな見た目のもんでよくそんなことしようとしたな! 怖すぎるわ! 計器等も針で表示するやつやし、ワイヤーとかいろいろ剥き出しやし、何と言っても座席部分がめちゃくちゃ狭い。身体がギリギリ納まるサイズ。窓も小さい。宇宙は果てしなく広大なのに、窓が小さいから見える宇宙も小さい。それに揺れのひどさ。ガガガガガガガガガガガガガガガ!!! 顔面ドアップでブレにブレるカメラ。個人的に演出としてこれがすごくツボだった。まるで彼らと一緒にロケットに乗ってるような感覚。そして後半のロケット発射場面は凄かったなー。エレベーターでコックピットへ向かい、通路を歩くときの高度に、高所恐怖症の僕は股がジーンとなる。カウントダウン始めるときのえ⁈ もう行くん⁈ まだ見てるこっちの心の準備ができてねぇよ! からの凄まじい発射。ドーーーーーーーーーーーーン!!! 発射シーンの迫力は食い入るように夢中で見たが、月に向かうシーンは音楽がちょっとうるさいな。そのあとの月面着陸は静謐そのもの。ことばでは描写できない美しさと悲しみがすべてを満たし、まるで人間の生と死を隔てる別世界そのもののようだった。このシーンは本当にすごかった。是非とも映画館で見てみたかった。こんなにすごい旅だけど、宇宙全体から見たら、塵よりももっともっと小さい。けどそんなミクロ微粒子の小さいなかに、こんなに大きなドラマがある。と、ここまでストーリーの流れをぼぼ全て書いてしまっているが、まぁ本作の表層的なお話の部分は周知の事実なのでよろしいでしょう。この感想文には本作で起こる深層的なドラマ部分にはほとんど触れてません。ニールを演じるライアンゴズリンは、もちろん外から見ると、ほとんど感情の動きは見えないが、ただ、彼の瞳をじっと見つめていると、単にプロジェクトを成功させようとする意志のみならず、ていうかそういう意志以上に、もっと彼を突き動かしていた根源的な思いが、見えてくるような気がする。そして、それが月面シーンにつながっていく。人間ってほんっといいもんだな。しみじみ思った。終わり方もものすごく印象的だった。そこで終わるのか、と。唐突にも思えたが、不思議な余韻が残る。いい終わり方だった。はじめは長くて淡々としてるから、見きれるかなーと思ったけど、見終わったら、またすぐに見たくなってきた。じっくりゆっくり忍耐強く味わう映画が好きな方には、是非ともオススメしたいですが、忍耐強さのない方にはオススメしません。
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