円柱野郎

勝手にふるえてろの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

綿矢りさの同名小説を松岡茉優主演で映画化した恋愛ドラマ。
10年間も中学の同級生“イチ”に脳内で片思いし続けた拗らせ気味のOL・ヨシカ。
そんなある日、会社の同期“ニ”から好意を告げられるが…。

片思いの相手と、自分に好意を向けてくる相手の狭間で揺れ動く。
その設定だけなら恋愛映画で使い古されたベタベタなものだけれど、主人公が人としてだいぶ拗らせてしまっているというところがミソ。
監督も「オールジャンルの人にひっかからなくても、特定の人に共感してもらえればいい」と目的を絞って撮ったとのことだけど、それが効いているなあ。
脳内で育て上げた想い人への片思いという拗らせ具合にしてもそうだし、後半に露わになっていく主人公と他人への閉じた距離感に共感してしまうと、とても心が痛い。
俺は男だけど、この主人公に似た気質があるから共感してしまうのだろうかw

アンモナイトという絶滅種、異常巻きというキーワードが、主人公の自虐的メタファーとして扱われているところが上手いね。
序盤から主人公の気質を分かりやすく描く町の人との会話もテンポがよく引き込まれるが、説明描写でありながら説明っぽく感じさせず、さらには 後半で「実はそれも全部脳内の会話でした」という仕掛けにも利用しているあたり、秀逸。
最初は「ああちょっとイタい人だけど、街の人とは会話してるしコミュ力はあるのかな」とミスリードされたけど、話が進むにつれ「まさか街の人との会話も妄想じゃないよな…?だとしたら哀しすぎるぞ」と考え始めたら、まさかその通りだったとは(苦笑)
こういう虚実入り混じった映像表現が面白い。
主人公が突然心情を歌い始めるミュージカルシーンは文字媒体ではできないことだし、とても効果的だったのでそれだけでも映画になった意味があるだろう。

しかしそれもこれも主人公を演じた松岡茉優が素晴らしかったことに尽きる。
陰陽様々な表情・感情を見事に表現する演技、そしてそれをやたらと表情のクロースアップで映すカメラ。
実はあまり前情報を入れずに観ていたので、「ここまで女優の顔にクロースアップを多用して魅力的に撮るんだから、監督はよっぽどこの女優ことが好きなんだろうなあ」と男目線で勘違いしていたのだけど、監督は女性の大九明子監督だったのですね。
となるとクロースアップの多用は女としての共感というか、主人公が感じている世界との距離感そのものなんじゃないか…と考えるようになった。
主人公は、他人との距離は遠いが自分との距離は近い…というか、その様々に見せる彼女の表情がそのまま彼女の内面の表現型というか。

それにしても色々拗らせた主人公の様子はとても心の痛むものなのに、鑑賞中は笑える場面が多いというのは面白い。
テンポのいい展開もあるけど、どこか漫画的なコミカルな場面も効果的で、これは演出の妙ですな。
“ニ”を演じる渡辺大知も、イイ人だとは思うけど…という演技が面白い、いや上手い。
微妙にアグレッシブな感じのところは「自分にはまねできないなあ」と思ってしまったがw

結果的に思い続ける相手より、自分を思ってくれる相手の方が良いんでない?という落ち着くところに落ち着いた話だけど、ネガティブな心情を切り出した話のなのに鑑賞後感が良かったのが良いね。
何となく大根仁や吉田大八の作品を観た時の様な感覚にも似る。
こういう作品があるから邦画は面白い。
円柱野郎

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