ベルサイユ製麺

甘き人生のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

甘き人生(2016年製作の映画)
3.7
巨匠マルコ・ベロッキオ、初鑑賞です。イタリアは巨匠が生まれやすい土壌があるのかしら?空気?水?イタリア映画、暑気払いにもってこいですね。

50年程前のナポリ。美しい優しいお母さんと可愛らしい男の子の甘い日々は、お母さんの突然の死で終わりを告げます。母の死を心が認めないないまま、母の事がブラックボックスの様になったままで、少年は危なっかしい思春期を抜け、時が経ち今は記者として働きながら1人暮らしています。彼の心を支え、時には苦しめるのは、子供の頃に母とテレビで見た黒装束の怪人ベルファゴール。しかし彼の長い孤独は、ある女性との出会いで遂に終わりを迎えようとしていました…。
と、無理にあらすじを説明しようとするとこんな感じなのですが、言葉に出来ない詩情や色使い、エキセントリックギリギリの演技などが渾然一体となって呼び起こすフィーリングが、イタリア映画の肝なので、観ないと何にも分からないですね!…どうしよう、頭の中で考えただけのデザートのレシピでも書こうかな…。麩菓子を100本用意してください。それから…

いや、もうホント素晴らしいのです!
印象的なシークエンスが、「もっと見ていたい」と思った刹那、切り上げられ次の回想に。時間軸は頻繁にシャッフルされるものの、そもそも出口の無い思考の、順番になんて意味があるものなのか?出口の門番、ベルファゴールよ!こんなの、もう楽しくないよ!
母以外の女性と始めてダンスを踊った瞬間からの、開放に向かうカタルシス。そして棚上げにしておいた痛みと向き合い、そして遂に30年越しの母の死の真相を知る…。あー、コレ、一回観ただけじゃ全然ダメなやつだ。
序盤の、母がぼんやりと環状線を乗り過ごし少年期の主人公がそれに付き合うシーン。ラストのかくれんぼのシーン。母の内心を想像すると、最後の夜に我が子の寝姿を見つめる母が恐ろしくも思えてきます。真相を知ってからの方が、彼の悩みは深くなるのでは?
…なんて考えると邦題が、もう全く的外れに感じられますね。なんか紛らわしいし。

主演ヴァレリオ・マスタンドレア、渇望と諦観と迷いが入り混じった主人公を見事に演じました。そして、彼に救いの手を差し伸べるミューズ役のベレニス・ベジョ!なんたるチャーム!こんな人が1人しか存在しないなんて、なんたる残酷!キャストはもう皆んな素晴らしかったですねぇ。
…あー、ダメだ。もう一度観るか、いっそ小説読むべきか。日本語版出てるのかな?

☆スーパー・蛇足・タイム☆
他の方が絶対に触れない部分だと思うのですが…
サラエボのパートでの悲惨な現場。戸外で血を流し倒れている女性。室内にはその女性の息子であろうか少年が1人、女性の事を意にも介さぬか、或いは完全なる逃避行動か携帯ゲーム機に熱中しています。ジャーナリストである主人公達は、その少年と(恐らくは)母の姿を一つのフレームに収めるべく…、という非常に印象的なシーンが有りますが、
そこで少年が持っているゲーム機はSEGAのゲームギア。プレイ中のソフトは『ハレーズコメット』、アメリカ・ヨーロッパでは『ハレーウォーズ』の名前で知られる、タイトー1986年作の名作シューティングゲームです。映画に画面は出て来ませんが、オリジナルのpsg音源を二個使用した哀愁漂うメロディは携帯ゲーム機でも健在で…ゴニョゴニョ…

(スーパー・蛇足・タイムは続く!)