海

テルマの海のレビュー・感想・評価

テルマ(2017年製作の映画)
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高鳴る鼓動、走る呼吸、踊り出す手脚、まるでひとが祈る姿のように枯れた木の枝は天に向け指先を伸ばし、くちびるからは愛の詩が怒涛のようにこぼれ落ちる。ひるがえるスカートの表と裏はひかりとくらやみ。目を閉じて、望んだとおりの場所にあなたのくちづけが降ってくる。願い、祈り、欲望、は、似ているようで違う。苦しみ、痛み、快楽、は、違うようでいてそっくりだ。盲目の怪物は暗闇の中でも音と匂いで狙いを定める。何かを奪われてはじめて鋭利になる感覚。長い歴史の中でひとを虜にし続けてきた詩も、音楽も、絵画も、こうして生まれた。ミルクの中に血を差すように、生み出されてきたのだ。目が音を聞き分け耳が色を見分ける。あなたは世界中の色を一気に消してみせたあと、わたしたちに向け800万のそれを放つ。
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