以下、2018.9.8のFacebook投稿を転記。
==============================
劇場で見逃していたが、DVDが届いたので少し遅れて鑑賞。
とりあえず100点満点と言える作品。後で書くけど、あれがああなっていたら200点の作品。残念。
青春映画の名手、三木孝浩監督作品。
いわゆるアイドルやアイドル的な役者を起用した青春映画は毎年毎年量産されている。その中には興収は高かったけど、「映画を観馴れていないティーンエイジャーの(馬鹿な)観客にも理解できる親切設計」、言い換えると中身がすかすかの作品も大量に存在する。
そんな中、三木孝浩監督はきちんと毎回水準の高い作品を作り続けていて、そこは好感が持てるんだけれど、この人の過去作もやはり、ほかの青春映画と同じくベタはベタであった。もっともこれは監督の責任というよりは製作会社や製作委員会の要請でそうなってしまうのだろうとは思う。
ところが本作にはびっくりした。
ご多分に漏れず、ベタな青春映画のアイテムや記号を多用しているのだけれど、それが全然ベタに見えない。
非常に優れた作品となっていて、三木監督のベストワークだと思う。
青春映画のもっともベタなシーンは「走る」シーンだ。
主に恋人に逢うために登場人物は走る。
作品によっては、「またかよ」とか「タクシー拾えよ」とか、冷めてしまうことも多い。
ところが本作の走るシーンは非常に見事だ。
例によってスローモーションもしっかり使っちゃってるし、それどころかシーン冒頭で「走るぞ」と宣言してから走り出す始末。
なのにこれが素晴らしいのは、それが目的を伴わない走りだからである。
その場で体験した名状しがたい感情を発露させるためだけに二人は走る。この走りは身体性を伴った感情表現そのものなのである。だから素晴らしい。
ところで、安手の青春映画では、提示された課題や葛藤や謎のほとんどは次かその次のシーンですぐ解消される。
これは、客の知性や記憶力を信用していない語り方、言い換えるとテレビ演出だ。馬鹿どもへの親切設計だ。
本作もやはり、そういう作りになっているんだけれど、驚くべきことにそれが全然不快じゃなく、むしろとても心地いい。
たとえば糸電話の場面。
これ、絶対相手が途中でリッちゃんにすり替わるよな、と思っていると笑っちゃうくらい想像通りのタイミングでそうなる。
たとえば薫くんが千に感情を吐露する場面。
普通ならしばらくすれ違いが続くが、この作品ではそのまま千が薫を教会へ連れていって、葛藤が解消される。
クライマックスの対立構造もかなり早くに解消される。
なぜそれが心地いいのか、しばらく考えてわかった。
自分はこの登場人物たちに相当深く共感しているのだ。だから、彼らの緊張や対立や葛藤が長引くことにとても耐えられないのだ。それが早く解消してほしいと願って観ていたからだ。
つまりは、それだけ共感できる演出がなされていることが原因で、だからやはりこの作品は見事なのだ。
最初に書いた減点ポイントはラストのラスト。
え~! そこ、その手前で終わるの!?
じゃあ、お流れのクリスマス演奏会にまったく意味がなくなっちゃうじゃん!
小田和正なんか流してる場合じゃないじゃん。そこはそのまま菜奈ちゃんのMy Favorite Thingsでエンドロールでしょうよ!
と思いはしたものの、それでも見事な作品です。
同じく音楽を扱うことが多い作家、ダミアン・チャゼルに憑依されたかと思うほど、チャゼルっぽい映画ですので、お薦めです!