グラビティボルト

ビューティフル・デイのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
4.5
ビックリした。主張し過ぎに聴こえるJグリーンウッドの音楽やほぼ錯乱したかのような幻覚と現実の繋ぎに面食らってしまう。
只、「俺に近づくな!」と言わんばかりに画面に入る者を暴力で弾き飛ばしていく獣を90分動かすというシンプルさが素晴らしい。

お話も前述した現実と過去あるいはフェニックスが演じる殺し屋ジョーの幻想が入り交じるので混乱するかもしれないが、過去のトラウマから絶望し日々自殺を考えるような主人公の周囲が一人の少女を救出した事をきっかけにして崩壊していくという正統派ノワールだ。

冒頭夜の裏道を歩くジョーに突然殴り掛かってくる男がフレームインするもあえなく昏倒させられ、画面外に弾き飛ばされる。ここが結構印象に残る映画で以降映画は大抵ジョーのバストアップや寄ったサイズに占拠される。
彼は一人だ。誰も寄り添えない。
母親との会話とか人間味ある場面も提示されるが、その最中にも彼には夜の闇がべったり貼りついているし、母親の老いがはっきり伝わるように撮られてるので希望を抱けない。
更に本筋の少女救出のパートになってからはジョーの同一フレーム内には死人か心を閉ざした少女だけになる。
だからこそ地獄巡りの果てのクライマックス、少女と交わされる当たり前な視線切り返し、周囲の日常的会話、ごく普通なやり取りに矢鱈感動する作りになっているのが凄い。
しかもこの場面は前述した現実と過去、幻想を行き来する作劇によって歪な説得力を持っている。

個人的には傑作で、世間的には怪作になりそうだ。抑制が効いた良い映画。