田島史也

女王陛下のお気に入りの田島史也のレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.6
温和で親切なアビゲイルが狡猾で利己的な人間に変わっていく物語。

アン女王に気に入られたいサラとアビゲイルのドロドロとした人間模様が見事に表現されていた。万人の万人に対する闘争。それは王宮における権力争いの中で、この上なく発露される。

アビゲイルの柔らかい表情が、段々と冷酷な表情へと変容していくのが、本当に心苦しかった。女王陛下に気に入られるために、自らを殺していった結果、悲しきモンスターが生み出された。常に女官に振り回されるアン女王も哀れだし、王宮を追い出されるサラも哀れだし、権力を貪るモンスターと化したアビゲイルも哀れだ。悲劇としか言いようがない。

最後のシーンがとにかく印象的。アン女王を自らの手中に収めた気になっていたアビゲイルは、女王のウサギを踏みつけることで悦に浸る。しかし、それに気づいた女王はアビゲイルに対し冷徹に振る舞い、足を揉むよう指示し、アビゲイルの頭の上に手を置く。こうして完璧な服従構図が生じる。そして、今しがたウサギを踏みつけたアビゲイルが、今はアン女王に踏みつけられていることが、アン女王とアビゲイルとウサギの3層の多重露光によって明示される。アビゲイルはアン女王にとって、ウサギと同等かそれ以下か。そこには圧倒的な権力の差があった。権力モンスターも女王の前に無力である。サラとアビゲイルが権力を巡って争いあってきた本作のラストとして、これ以上ないほどに鮮やかであった。

美術の仕事が素晴らしい。建物も衣装も、煌びやかで美しく、徹底されているな、という印象を受けた。カメラワークとか画作りとかは、比較的シンプルなものだったが、荘厳な装飾を思えば、無駄のないそれらは非常に効果的であった。


映像0.8,音声0.8,ストーリー0.7,俳優0.8,その他0.5
田島史也

田島史也