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ザ・スクエア 思いやりの聖域のArxのレビュー・感想・評価

3.3
例えばあなたは電車に乗っている。周りの乗客は静かに自分のスマホを見ている。そうしたら、一人で奇声をあげる「ヤバい人」が乗ってきたらどうするか?まあ、大体は見えてないフリをするでしょう(私もそうする)。しかし、たまに乗客の一人がその人に対しキレ始めるとそれに便乗する人が出てきたり、それを諌める人が出てくる。

上記はかなり卑近な例だが、この映画ではそのような「普通の人」が作る社会的なコードがいかに脆弱で偽善的かということをブラックユーモアとして写している。それは、会議中に泣く赤ちゃんの声(これは無視できる)や講演会中の汚言症患者のヤジ(無視できなくなり困惑する)、そして一番印象的である猿人のインスタレーション(暴力的な手段に出る人が次第に増えるとその場の雰囲気が一気に変わる)などで見られる。

社会的なコードの中には「道徳」も含まれる。人は平等だとか、貧富の格差は無くさないといけないという事は皆知っている。しかし浮浪者にわざわざ金を恵むほどの金銭的、精神的な余裕もないのだ。そのような状況を「スクエア」というアートの展示でこれ見よがしに見せる事自体が陳腐であり、それを示すように主人公は低所得者の男の子の疑いを晴そうと動く事で自分の道徳性を回復しようとする。

ある意味この映画自体が「スクエア」のような陳腐さがあり、予想できる話のオチも含め今の社会状況に関心がある人であれば既に見知っている事を再提示しているに過ぎないが、それも含めて少なくとも映画を見たりアートを鑑賞する余裕がある私達を皮肉っているという意味では監督の手のひらに乗せられているのだろう。
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