焦げすーも

テリー・ギリアムのドン・キホーテの焦げすーものレビュー・感想・評価

3.5
テリー・ギリアムの過去の奇妙奇天烈作品を期待していくと少し肩透かしに感じるかもしれない。話の筋そのものは、かなり理解しやすい部類。

アダムドライバー扮する映画撮影の夢破れ情熱を失ったCM監督のトビー。物語は、自身が大学時代に撮影した「ドンキホーテを殺した男」のDVDを手にしたことから始まる。映画撮影ロケ地に10年ぶりに戻ってみると主役に抜擢した老人が自身をドンキホーテだと信じ込んでいる!しかもトビーを従者のサンチョパンサと信じ込みドタバタ道中を繰り広げるバディもの。
アダムドライバーが終始見せる困り顔と、洞穴の泉での奇妙な歌とダンスは必見。コミカルな演技もそつなくこなせることに驚き。

ドンキホーテ役の演技は、本当にとち狂っているのかのよう。かつ、彼の最期のひとことはまるで本当の遺言のようであった。ドンキホーテが我に帰るかのように思えるあの瞬間から、自我が乗り移ったかのようにトビーの行動もイカれてきて見せられる映像の狂気はスクリーンから溢れてくる。

「ドンキホーテを殺した男」という原題について。
“ドンキホーテを生み出し、殺し、そしてトビー自身にドンキホーテ精神が乗り移った”というのが自然な解釈だろう。
しかし、城のシーンのエンディングは別解釈も可能か?ドンキホーテという存在を老人から引き剥がし、その思いを自身に背負わせたいと思ったトビーが見ていた幻影なのでは?とも考えられる。

トビーが大学時代に撮影した「ドン・キホーテを殺した男」のストーリーを想像しながらストーリーを反芻するとさらに深みにハマっていく。ひとつの仮説として、トビー自身は意識せずドンキホーテ役の爺さんを見世物的に撮影していたのかなと。終盤の城のシーンで、反対にトビーが見せられる側に回ったときにどのような感情を抱いたのか。そこがトビーがどんどん狂っていくきっかけになっているのではという解釈もできる。
焦げすーも

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