焦げすーも

家族を想うときの焦げすーものレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
4.0
父親の思考・行動の根本が最後まで変わらなかったという意味で、最悪のバッドエンドだと思われた。
家族を想うが故の行動なのは理解出来る。だが、父の方を再度向いてくれた家族の声も聞かず、バンのハンドルを握りアクセルを踏まざるを得ない父親。
その瞬間、観客は彼に対して他の選択肢はなかったのかと思ってしまうだろう。しかし、当人に対して「他の選択肢はなかったのか?」という詰問はあまりに酷すぎる。働かなければ収入がないどころか罰金、労災補償もないというギグエコノミーシステムに組み込まれてしまった以上、選択肢は限りなく少ない。
母親が介護する婆さんは元炭鉱労働者の組合員だが、そこで描かれる労働者の連帯はもはや歴史上の産物であるかのようだ。

(話を変えて)
自分が一番切なく感じられたのが、感情を適切にコントロールしてきた母親が唯一声を荒げたシーンの直後である。彼女は、”感情的になって汚い言葉を発してしまった、介護ケア労働者として恥ずかしいことだ。”とさらに取り乱してしまうのだ。
彼女は、訪問介護の仕事を思いやりを持って、私的なことには過剰に立ち入らずこなしてきた。それも、家庭のトラブルにも逐一対処しながら。子どもに対してだけでなく旦那にも常に穏やかに諭すように。彼女は、「感情労働のお手本」のような労働者である。
サービス産業化のこの世の中では、感情を適切にコントロールする術が求められ、感情的になることは恥ずべきことという規範が浸透している。つい最近読んだ「働く人のための感情資本論」の受け売りであるが。
思い返すと、クソな客にはクソが!!と言える配送ドライバーの旦那の方が労働環境として幾分かマシな部分があるのではとも思う。このクソが!と客に言っても客評価は悪くなかったのは謎だが。
焦げすーも

焦げすーも