あんがすざろっく

ボビーのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

ボビー(2006年製作の映画)
4.2
1963年11月、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが遊説先のダラスで暗殺されます。
そして1968年6月、弟のロバート・ケネディも暗殺されます。
大統領候補の選挙キャンペーン中の出来事です。


事件が起きたのは、予備選挙演説を行ったロサンゼルスのアンバサダーホテル。

ホテルには多くの人が滞在していました。
映画は、そのロバートが暗殺される前日、アンバサダーホテルでの人間模様を、豪華アンサンブルキャストで描きます。

ベトナム戦争が泥沼化していた時代、彼らは皆、
国家の行く末に漠然とした不安と絶望、諦めを
抱き、その中で僅かな希望の灯火を求めていました。
4ヶ月前にはマーティン・ルーサー・キング牧師の暗殺もあり、ロバート・ケネディの存在、彼の語る言葉は、より一層国民に必要とされていたのかも知れません。

ケネディは作品にはほとんど登場せず、当時のフィルムを使用するに留まっています。
事件を導入にしながらも、映画が描くのは当時のアメリカ社会の空気、理想を求める人々の姿です。

不当に長時間労働をさせられるメキシカンや、人種差別を隠そうともしない上司。
祝勝会の為に集まっていたケネディ陣営のメンバー。
ホテルでディナーショーを開く大物歌手。
結婚式を挙げる予定の若者。
ロビーでチェスに興じる元ドアマン。

キング牧師暗殺に打ちひしがれる青年は、不当に選挙権を奪われる黒人達の姿に、またも法律は人種によって機能しなくなった、と怒りをぶつけます。

ホテル厨房のチーフはカラードですが、彼は怒りで全てを解決しようとはしません。
とても知恵があり、高潔な人物です。
ローレンス・フィッシュバーンは比較的出番が少ない方ですが、このキャラクターに奥深さを与えています。

また、結婚式を挙げるカップルにイライジャ・ウッドとリンジー・ローハンが扮していますが、この結婚のエピソードも素晴らしい。単純に相手のことだけを思うのではなく、もっと大きな愛で世界を救おうとする小さな願い。
こんな時代が本当にあったんだな、と考えさせられました。

人種差別主義者の厨房マネージャー(クリスチャン・スレーター)と、厨房スタッフがラジオで野球中継を聞くシーンも名場面でした。


僕が一番好きだったシーンは、ホテルの美容室のオーナー役のシャロン・ストーンと、酒浸りのスター歌手役、デミ・ムーアの共演シーン。この2人が同じ画面に収まると、なぜか凄い瞬間に立ち会えているな、と感じてしまいます…。
特にストーンは、いつもの女優オーラをかき消し、人生を積み重ねてきた女性像を体現していて、この作品で一番の拾い物。

キャラクターは、それぞれを紹介したら長くなってしまうけど、これだけのキャストを揃えただけでも驚異的です。


これを束ねた監督は誰か。 
あのエミリオ・エステベスですよ。
セント・エルモス・ファイヤーのカービーです。
ヤングガンのビリー・ザ・キッドですよ。

一瞬で、これだけの名優を集められたのが、彼の人脈と人徳の賜物だと、すぐに理解できます。

マーティン・シーンの息子にして、チャーリー・シーンの兄でもあるエミリオは、監督作も数本手がけていて、しかも社会派だったり、人間ドラマであったりと、観察眼の深い人なんだな、と改めて思わされます。

主題歌は、アレサ・フランクリンとメアリー・J・ブライジが競演した
「never gonna break my faith」
僕の大好きなブライアン・アダムスが作曲しています。
こちらの曲もまた素晴らしくて、作品の世界観にピタリと合っています。
YouTubeにあったのは、アレサとゴスペルグループのものでしたが。

https://youtu.be/ZLbHi92YOhE


劇場で観ていたのですが、久しぶりに見返してみて、やっぱり好きな映画です。

作品的には、同様の群像劇よりどこか突出した部分があるとか、そういった作品ではないのですが、豪華キャストというとっかかりから見ても良い作品だと思います。
先日の「グローリー」もそうでしたが、映画を通して歴史を知ることは、とても有意義だと思いました。
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