のん

累 かさねののんのレビュー・感想・評価

累 かさね(2018年製作の映画)
4.6
みせてあげる、ニセモノがホンモノを超える瞬間を



観ている側は奈落へ落ちているのに、作品そのものはある種の快感を伴って昇華していく構造は『セッション』や『ブラック・スワン』に通ずるものがあり、つまりは自分が大好きなタイプの作品である。


松浦だるまの14巻に及ぶ原作漫画は、親子二世代に渡る壮絶な宿命が複雑に絡みあう傑作で、これを全て映像化するのは映画という媒体では到底不可能であろう。


そんなわけで、登場人物をざくっと減らし、淵かさねと丹沢ニナの2人を軸に据えた2時間の物語に再構成されている。


醜い容姿ゆえに蔑まれ劣等感の塊である累と、天性の美貌を持ちながら役者としては未熟なニナを土屋太鳳と芳根京子の2人が一人二役かつ二人一役で演じる。


画面上には
累(芳根京子)
ニナ(土屋太鳳)
累(土屋太鳳)
ニナ(芳根京子)

の計4パターンが存在し、それぞれ同じ顔で、混乱をきたしそうなところだが、主役2人の驚異的な演技力でほぼ混乱せずにストーリーを楽しめる。


圧巻は土屋太鳳で、ニナ/累の仕草かたちを完璧に使い分け、同じ顔で別人にみせる離れ業を披露。

かつ、その身体能力の高さを存分に披露する後半は、天才的演技と原作で評される累を三次元のキャラクターとしてきわめて説得力ある形で表現していく。



では芳根京子が土屋に対して劣っているのかというと、そうではない。
土屋が光、そして芳根が闇の部分を担っていて、決して派手さはないが、作品の後半では存在感を発揮する。何より芳根があの原作の累そっくりにみえる場面があり、表情の作り方にぞくりとさせられる。


原作を基準に考えた場合、羽生田(浅野忠信)がなぜあそこまで淵透世に固執するのか、累の演劇に対する異様な執着など、映画では深く描かれていない部分も多い。


だが本作は、劇中のセリフを使うなら本物(原作)を偽者(映画)が超越する瞬間が確かに存在するのだ。


ラストにおける土屋太鳳は、朝ドラのヒロインのイメージ完全に脱却し、大女優として大成していく、現実とフィクションが融合していく凄味があり、おそらく土屋太鳳のターニングポイントといわれる作品になると思う。


今年の映画では『カメラを止めるな!』を超えて暫定1位です。
のん

のん