フラハティ

四月の永い夢のフラハティのレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.4
拝啓 四月の永い夢様

花の盛りもいつしか過ぎて、本格的な夏を迎えました。
お変わりありませんか。


中川龍太郎監督の前作、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』と扱っているテーマはそのまま。
残された者の物語。
本作は主人公の元カレが自殺をし、それから三年もの月日が流れている。
前作との違いは、主人公の立ち位置と、彼女はなんとなく元カレの自殺の事実を受け入れていること(もちろん時が流れて)。

この世を去ることは、一瞬にして多くの損害を残すことになる。
失っていくことに悲しみを感じる。
出会いよりも別れはずっと心に残り続けるように。
同じ場所にいれば、思い出と共に人は映し出される。
彼女がその場に残り続けているのは、自身の責任と、拭いきれない心の葛藤があるから。
人生において休む時間は必要だと思うし、彼女はまさにその時間の中にいる。

レトロな物に囲まれている生活=彼女自身の時が止まっているという示唆でもある。
でもマイナスな意味合いを感じさせるだけではなく、どこかに温かさがあるというのが、主人公の人柄や周りに流されないといった拘りのようなものを感じさせる。


「獲得することではなく、失っていくなかで自分を再発見すること。それが人生。」
ずっと何かを失い続けることはできない。
ずっと何かを得ることができるならそれは幸福だろうか?
失っていくからこそ、得なければいけないものが生まれ、得なくてもいいものも生まれる。
何かを抱え続けることは、本質から目を背け、語り合うことから遠ざかってしまうという側面を備え持っている。
彼女は元カレの自殺という問題を持ち続け、それに付随した心の奥底にしまいこんでいる秘密を失うことができない。


彼女は孤独を抱えているわけではなく、元カレの呪縛(この言い方は不適切かもだが)を抱えている。
彼の最後に近しい場所にいたのは彼女だし、彼からの数多くの気持ちを知っていたのも彼女。
彼女からは、自身の内面との折り合いがつけられていないように感じた。それがラストの告白にも繋がっていく。
この告白は少しドキッとしたし、その上で彼女が抱えていた心の空白や苦しみを理解し、四月の永い夢から覚める瞬間を感じることができた。

「あなたには愛想笑いが似合わない」という言葉は主人公に向けられた言葉。
一瞬だが、元カレの家族に会った瞬間は愛想笑いじゃなかったかな。確かに似合わない。
元カレの家族に向けられた愛想笑いが、いつしかわだかまりのない笑顔に変わったとき、彼女はまた新しい一歩を踏み出している。
彼女のラストの表情は明らかにそれまでと違い、ラジオからふと流れる告白に頬を緩める瞬間がとても美しい。

そうして彼女の季節は夏へと進んでいく。


敬具


追伸
前作は死んだ者のフォーカスが強く感じられたが、本作は生きている者に強くフォーカスされているのが印象的。
扱っているテーマがほぼ同じなのに、本作が秀作と感じたのは、朝倉あきという女優さんの魅力と、本作の温かさなんだと思う。
前作は青臭さを感じたのが、本作は美しさと繊細さをすごく感じ、それがまた言葉にならない余韻を残してくれる。
フラハティ

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