シズヲ

イナゴの日のシズヲのレビュー・感想・評価

イナゴの日(1975年製作の映画)
3.5
映画業界が隆盛した1930年代を舞台に描かれる“日陰者たちのハリウッド”。見る前はハリウッド・バビロンを想像していたけれど、実際はそこまで“ハリウッドの醜聞”的な世界には突っ込んでいなかった。映画界の舞台裏から遠い立ち位置にいる端役女優が話の軸足となっていることもあり、ハリウッドの栄光からあぶれたアウトサイダー達の悲喜こもごものような物語になっている。主演扱いのドナルド・サザーランドは中盤からの登場だけど、何とも言えぬ冴えない雰囲気と内に秘めた鬱屈の演技が印象深い。

映画業界の栄華を示すような30’sサウンドの陽気さ等とは裏腹に、作中の主要人物三者は徹底してそういった輝きの裏側または外側へと立たされている。望むものを得られない彼らは苦悩し、苛立ち、そして他者への攻撃へと走っていく。鳴かず飛ばずのままハリウッドの底辺を彷徨うエキストラ女優・フェイが象徴的で、彼女を中心に取り巻く登場人物らは皆アウトサイダーの趣に溢れている。心臓病を患い、突発的に笑い出してしまう彼女の父親(『ロッキー』にも出たバージェス・メレディスだ)の哀愁は特に居た堪れない。映画関係者のブルーフィルム鑑賞会や撮影中の事故の対応など、要所要所で覗かせる毒のある描写も印象的。とはいえフェイを取り巻く人間模様が話の中心になりすぎていて、思ったより“ハリウッドの実態”のような掘り下げが描かれなかったのは惜しまれる。

溜めに溜めてから訪れるラスト20分の暴動シーン、ひたすらに壮絶かつ悪夢的。そもそもきっかけとなる事件自体が“鬱屈の爆発”なだけにじっとりと嫌な質感に溢れている。そこから雪崩れ込むように巻き起こる黙示録めいた大混乱、半ばゾンビ映画の様相。ほんの先程まで描かれていた“華やかなハリウッド”の陰を抉り出すような衝撃。ルーズベルト大統領の新聞記事が伝える“時代の潮流”が象徴的。最後の方は演出も凄まじいことになっていて「最早これは現実なのか?」と錯覚してしまう。ただ正直暴動のインパクトが余りにも強すぎるので、長々とやっていた割に良くも悪くも“ラストの為の映画”になっている感は無くもない。
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