10円様

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法の10円様のレビュー・感想・評価

3.8
貧困社会、格差社会。顕在化しない大きな問題。アメリカの闇を独特の視点で捉えたショーンベイカーのこの作品が、数多に渡る映画の中に埋没しないよう、私たちは真摯に受け止める必要がある。
始まりはクリスバーゴッチがハイウェイで遊んでいる子供を見た時だ。「なぜこんな所で遊んでいるのだろう?」という小さな疑問からこの問題提起は生まれた。意識していなくては気付かないはずだ。隣には夢の国があるのだ。夢の国を見た人はその外側までは見ない。
しかし面白いのはこの貧困社会を子どもの視点で捉えた部分である。子どもは誰とでも仲良くなり、何をしてもそれを遊びに変えてしまう。多人種の子だろうが、危険な場所だろうが全てを受け入れる。無知なるが故の強さがある。他人にお金を強請ろうが、他人の車に唾をはこうが、自分で作り出したルールの中で育った彼女たちが将来欠落した人間になるとは何故か思えなかった。
大人達の行動をある意味冷静な視線な見た子ども達だが、何があっても悲観的にならなかったムーニーが初めて泣くシーンは、彼女が現実へのスタートラインに立ったということなのだろう。

それに対しての大人達の視線で捉えた問題は対極的であった。母親ヘイリーの持つ信念は、お金。明日の生活。娘。それだけ。どんなに横柄な態度をとろうが、どんなに捻くれた価値観があろうがヘイリーは母親として、人間としての明日の生活を無心で追いかけていた。彼女にどんなバックストーリーがあるかは分からない。しかし娘が拠り所となっている描写はこれでもかと言うほどあったし、児童局の職員を目の前にした時の不安を怒号で押し殺す態度は、またヘイリーも新たな現実のスタートという現れだろう。
それにしてもヘイリーが登場すると次はどんな面白い事をしてくれるのだろうと期待が高まってしまう。

「真夏の魔法」とはムーニーにとっての一夏の出会いと冒険の日々。そして母親との時間。ヘイリーにとっての娘との時間。という事かな。アスファルトが焼けるようにギラつく街並みと、夜空に上がる花火。とても良い邦題だと思った。
夢の国の外側も、また夢の国なのだと。

前作タンジェリンでは3台のiPhone5sのみで映画を作ったベイカー監督だが今回はちゃんとしたカメラを使用。しかしある場面だけ不自然に撮影方法が異なり、ここだけiPhoneを使用しているとの事。この映画の賛否にもなっているシーンだが、個人的には有りだと思った。あれが子どもに出来る精一杯の現実からの逃避。その先は触れないでいてあげよう。

ちなみにヘイリー役のブルッリンプリンスは実際にモーテル暮らしの子どもで、エキストラも殆どがモーテル暮らし。リアルを切り取る上で実は文句の無い配役だったりするが、子ども達の視点から見る社会を大人が表現するのは、とても難しい事だと思った。しかしここまで童心に返る事ができるとは…そしてその後現実を突きつけられる。

なんとも形容し難い疲労感があった。
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