滝和也

スリー・ビルボードの滝和也のレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
3.9
事件は燻っていた。
だが、三枚の看板により
怒りの炎の連鎖が
燃え上がる…。

その炎は思わぬ方向へ
延焼し…。

「スリー・ビルボード」

先の読めない過激な展開と延々と続く、怒りの連鎖と言う人の感情のぶつかり合いに、いささかヘトヘトになりました…。

そこにあるのは、アメリカ南部の田舎の現実なのかもしれません。未だ続く差別意識が根底に流れている上に、警察の怠惰や黒人への暴力が表層化している社会。本来最も信頼されるべき、警察を代表に信頼関係が消えた社会の病巣を抉り出してきています。

ぶつけどころのない怒りの行動を連鎖的に過激に描き出していく中で人間というものが本当に深く書き込まれていました。キャラのクセが半端なく、濃いストーリーです。

勿論、今作は行動することは是としていますが、後半その手法を否定して、自己を見つめ直すよう、諭してきます。神様=監督かの様に。怒りからの行動だけでは、何も生まれない…赦しの心をもって行動なさいと…。

多分にキリスト教的な観念であり、神の前では全ての人が平等であるとされているはずの国が全くそうでなく、皮肉めいた部分も感じざる得ない部分も多くありました。

ただ、考えさせられる映画であり、その結論は観衆に任せた、ある意味救いのあるラストだったと信じたいです。

フランシス・マクドーマンド、たまたま1本しか見たことがなく、これ程凄まじい演技をされる方とは知らず、驚きました。もう一方の主役、ウディ・ハレルソンの見事なクズぶり、そして無責任すぎるぜ、サム・ロックウェル(笑)と見事な芸達者が集まった作品でした。

社会派で皮肉めいた部分を良しとしない方も多く、また考えることを投げ込まれるため、賛否両論になりやすい作品だったことが、ファンタジーの体裁を取りながらも正面から差別を乗り越える愛を描いたシェイプオブウォーターにオスカーを奪われた理由かもしれません。しかし間違いなくそれに匹敵する重みのある作品でした。
滝和也

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