噛む力がまるでない

Z Inc. ゼット・インクの噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

Z Inc. ゼット・インク(2017年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

 パンデミック映画としては主人公がはじめからウィルスに感染しているというちょっと変わったプロットで、暴力に躊躇のないアッパーな状態が話に加速をかけているのだが、それがスティーヴン・ユァンだとどうもクレバー……というか理性が働いているようにしか見えないのはちょっと欠点だと思う。そのぶんパートナーのサマラ・ウィーヴィングがこれまたぶっ飛んでいて、こういう映画の中の彼女はとびきり魅力的なのもあってユァンのパンチの足りない部分をカバーしている。二人の音楽の趣味がまったく合わないとか、本筋に関係はないけど気の利いたダイアローグでも関係性を作り上げていて良い。

 会社の話がメインであることは一応忘れてはおらず、道徳観念が崩壊した中でもデレクがのし上がる要素とメラニーの差し押さえの件にはそれなりの手続きでオチはつけている。とことんギャフンと言わせる会社エンタメが描かれるのはストレス社会の過激な表象ではあるものの、気が済んだらスッパリ辞めなさいというこの映画のメッセージはまあまあ真っ当である。
 感情を制御できない状態なのに意外と対話が成立するのは拍子抜けだったのでもっとみんな終始クレイジーでもよさそうなものだが、それだと間が持たない気もする。とにかく主演二人の魅力や工具を使ったアクション、RPGのようにビルの最上階を目指すわかりやすい構造もあって楽しい映画だった。