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デイアンドナイトのMaUのレビュー・感想・評価

デイアンドナイト(2019年製作の映画)
3.8
公開時逃してしまい、どうしても映画館で観たかった作品。限定リバイバルアフタートーク付き上映があり、こちらでやっと観賞。満足。

父の死をきっかけに郷里の秋田に戻る青年明石。父の死の真相を知り、遠因でもある三宅に怒りを覚える。そして、父ゆかりで知り合った男北村に仕事を手伝ってくれと頼まれ、その職場の養護施設で少女奈々にも出会い、明石の心が大きく揺さぶられていく… というストーリー。

山田孝之プロデュース作品が気になる、というのが本作を知るきっかけ。公開前にドラマ「dele」を見ていて作品も画もとても好みだったので、撮影も同じ今村氏だと認識してぜひと思っていた。にもかかわらず、忙殺されて公開の時に逃してしまい… その後、同じ藤井監督撮影今村氏の作品「新聞記者」を先に観ることになり、さらにこの作品もどうしても映画館で観たい、と思って狙っていた。念願かない映画館で観られて、結果、作品にも満足。

「善と悪はどこからやって来るのか」というのがテーマ。善と悪。昼と夜。雪の白と夜の黒。はっきりとした線引きはなく、人は誰でもどちらも持っている。完全なる善も、逆に悪も存在せず、それはいつも表裏一体で、どちらが出てくるか自分でもコントロールできない。誰かを思うがゆえに善が悪を内包してしまうこともある。そして自覚がない。善を貫いているはずが、悪に手を染め、それなのにどこか正当化するかのようにそれになじんでしまうこともある。人間の社会は不条理で、善だけを貫けない。みんな矛盾で正当化された都合のいい自分の善に寄り添って生きていて、それが他人からは悪であったりもするものだ。無機質にカラカラと高いところで回り続ける風車が象徴的に置かれていて、その下でもがいて右往左往する人との対比としてもとても印象的だった。話としては「空飛ぶタイヤ」にモチーフが似てしまったのがちょっと残念だったけど、展開は嫌いではないな。秋田の自然がとても作品に利いていて、この自然の中だからこそ根源的なことを人間が考えるのでは、とも思う。凍てつくような寒さが感じられる吐く息の白さが私の心には強く残った。

役者さんがとてもいい。阿部進之介(明石)は初見だけど、どこにでもいる凡な青年が突き動かされていく変化がよかった。清原果耶(奈々)はこの作品の心臓でもあり、とにかく印象的。目も涙も佇まいも心に刺さる。安藤政信(北原)は本心の見えない乾いた雰囲気と雪山の繊細な涙の力がすごいと思った。田中哲司(三宅)は社会のリアルの体現者。彼の存在があることでこの作品がとても現実的になり人間臭くなる。振りきってしまった悪ではなく、社会の矛盾や不条理はこんな風に存在しているという表現が巧い。その他で気になったのは山中崇。この人の「俺じゃねーだろ」は素直にいやらしくてよし。あと、若手の笠松将も気になったので今後注目したいな。

アニメ「鉄コン筋クリート」が好きだけど、あれがファンタジーの中で描いたものを、この作品は現実の中で描いたと思う。好き嫌いがあるだろうし、とても重いけれど、ごまかさずに過酷な自然が映像できれいに切り取られていることで映画として美しい。風車、昼と夜が重なっていくシーン、無音の慟哭、随所での人物のワンショットが好きだったな。
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