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スターリンの葬送狂騒曲のニトーのレビュー・感想・評価

スターリンの葬送狂騒曲(2017年製作の映画)
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いやー面白かったです。原作のグラフィックノベルは冒頭だけチラッと読んだ覚えがあるのですが、それだけだとここまで笑えるような内容だとはわからなかった。

私は自他ともに認める勉強できない劣等生なので当然ながら歴史も赤点取らなければ万々歳だったレベルゆえ、ソ連史についてもほとんど知らないのですが、この映画に関してはそういうのはほぼ不要でした。まあ歴史的には(あえて)間違っている部分もあるらしいので、むしろあまりソ連史に詳しくない人の方がストレートに楽しめるのかもしれない。

スターリンの死によって物語が駆動し始めるわけですが、彼の死を確かめるためにすらあれだけのごたごたが、というのは本当に滑稽で面白い。一転に集中していた権力が宙に浮くやいなやパワーゲームを始める委員会の姿は、スターリンの死そのものがあっけなく笑えるものであることからも明らかなように、巨悪というものが本来的には存在しえないということを、(まあこの映画を観るまでもなくどこかの国の惨状をみればわかることですが)改めて認識させてくれる。

あらゆる登場人物の一挙手一投足が笑いに転化されるこの映画において、しかしその本質は万人が恐怖による支配下にあるということの証左なわけで。例外的にヴァシーロフ元帥だけが恐怖心を垣間見せることすらないけれど、それはもちろん軍部という政治権力とはやや位相の異なるワイルドカードを掌握しているから。

笑える部分はたくさんあるのですが、マレンコフが「ロシアンアスにキスしろ」と言ったところで憲兵?が女の子の目を隠すところなんかが特に細かくて笑えました。

 特に、人の死すらも笑えるようになっているのがさすがである、と言いたい。クーデター開始した委員会の部屋に入ってきたベリヤ側のNKVD(?)を追う軍部兵士のところとか、一連の銃殺シーンとか。スピルバーグイズムもある。なればこそ、スターリンとその他名もなき殺された人々が同じ地平に立たされることになるのであるから。

まあそもそも、そこまで徹底しないとこの映画のスタンスとしてあり得ないというだけではあるのだけれど。
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