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ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男のohassyのレビュー・感想・評価

3.5
「あの頃プロテニスプレイヤーは僕らのスターだった」


何を隠そう、僕はテニス少年だった。
小学生の頃に母親の趣味に付き合わされたことがきっかけで、そのまま中学では軟式テニス部に、高校では硬式テニス部に所属。
大学では「あらゆるテニサーは超軟派」という偏見に支配されていたのでテニスを続けることはなく、そこで僕のテニス人生はほぼ終わった。
今思えばなんでそんなに頑なな考えをしていたのかよく分からないけれど、若い頃のオレかわいいなとちょっと思う。

本作のクライマックスとなる伝説の試合は1980年で、僕はまだ小学生だったけれど、母親はボルグボルグ騒いでいたし、マッケンローはその後世界一となり日本のCMにも出て、「痛みにはマッケンロー」みたいなダジャレを言わされるくらい人気があったし、テニスシューズは少し前のバスケットシューズ的にファッショナブルだったし、大学生はみんな軽井沢だったし、まさに現代テニスの黄金期だった。

そのあと、ベッカー、レンドル、マイケルチャン、アガシあたりまでかな、ちゃんと見てたのは。
ナブラチロワやヒンギス、グラフ、女子も人気選手がたくさんいた。
ファミリーテニスはすこんちょ使いだった。

そんな経緯もあり、本作はとても楽しむことができた。
超一流のライバル物語ということでは、F1のニキラウダとジェームスハントを描いた「RUSH/プライドと友情」という傑作がすぐ思い浮かぶけれど、それに比べるとドキュメンタリーの監督らしいドライで淡々とした演出が本作の特徴と言える。
彼らはお互いを知り、意識しながらも、決勝戦の直前まで出会うこともなく、お互いがお互いの戦いを続けていく。
静かな佇まいの中で煮えたぎる怒りを燃やす、まさに噴火寸前の火山のようなボルグと、怒りをストレートに表現することで自我を保つマッケンロー。
そんな2人を捉えるのは、冷めているくらいの演出がちょうどいい。

テニスをかじった身としては、あれほど過酷で孤独でメンタルが影響するスポーツもなかなか無いんじゃないかと思える。
昨日まで得意だったフォアハンドが、翌日から1週間全く入らなかったことがある。
僕のような県大会レベルの人間と比べることもないけれど、一流であればあるほどそういうことは起こるのではないかな。
だからこそ、全く交流のなかった2人にもかかわらず、お互いのことを理解し合えるのだろう。
初めて1つの画面に収まった決勝戦の控え部屋で、無言で並んで座る様子には、どこか壊してはならないような神聖なものがあったし、調子の出ないマッケンローに対して何気なくかけたボルグの一言と、その言葉を受けったマッケンローの奮起は、彼らにしかわからない世界の濃密なコミュニケーションだ。

テニスはとても難しいから、なかなか付け焼き刃で上手くはなれないものだけれど、CGやカメラワークでうまく編集されていたように思う。
カメラの前で演技するのではなく2人の行動をカメラが追うことで、スポーツのライブ感が伝わってくるようだった。
コートを真俯瞰で捉える構図や、秀逸なテロップワークなど、かなりデザインにこだわっているのも良かった。
何より主演の2人がそれぞれとても似ているというか、だんだんと本人に見えてくるからすごい。

それにしてもボルグは当時25歳だったのか、そんなに若かったとは。
少なくとも30歳は超えているベテランだと思っていたし、童顔のマッケンローより上の世代だと思っていた。
3歳しか違わないんですね。
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