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ジュリアンのRのレビュー・感想・評価

ジュリアン(2017年製作の映画)
4.4
冒頭、藪から棒にヒートアップする離婚調停。夫アントワーヌと妻ミリアムはそれぞれに弁護士をたて、判事と親権について争議している。アントワーヌはDV夫で、息子のジュリアンも娘もアントワーヌのことを嫌っている。慰謝料は請求しない代わりに、未成年のジュリアンに対してのミリアムの単独親権および養育費を要求。一方アントワーヌ側は、DVの証拠物件が不十分である、アントワーヌはジュリアンのために仕事を変えた、ミリアムは単独親権を求めるあまり子どもたちをそそのかしてアントワーヌのことを悪く言わせている、しかもミリアムは失業中だ、と主張。この時点では見ている我々は、どっちが本当のこと言ってるのかわからない。まぁ離婚なんてどっちもどっちさ。結果どう出るか……共同親権になっちゃいました。アントワーヌは隔週、週末をジュリアンと過ごすことに決定。めちゃくちゃ嫌がるミリアムとジュリアン。内実やいかに……というストーリーで、これ以上お話に触れるとネタバレになってしまうので言いませんが、少しずつ少しずつ妻と夫との関係、ふたりと息子・娘との関係が明らかになっていくプロセスが面白い。アントワーヌが荒々しい性格で、なだめるのに苦労しすぎたミリアム、くらいの状況なのかな、と思ってたのが、だんだん感情的になっていって、おそろしい姿を見せるあたりから……んー、なるほどな、思った以上に見た目通りだな、というのと、先が結構読めてしまうな、というので、映画全体としては期待値を下回るかな、と予感したのだが、そこそこ肝の冷えるシーンが連発。マンションの駐車場での追っかけっこくらいはまだよかったけど、ストーカーのごとく家の在りかを探ってくるシーンとか、久しぶりに顔を合わせるシーンの気持ち悪さ。徐々にエスカレートしていく狂おしさ。見てて呼吸が苦しくなりそうなほどの閉塞感。からの、娘の誕生日パーティーのシーンに至ります。娘が自分の誕生日パーティーで、自分をお祝いするライブ演奏してるのなんかツボやった。日本人の感覚からしたらありえないよな笑 てか、娘の彼氏キモ過ぎじゃね。なんでこんな男と付き合ってるのか。そりゃお母さんもお父さんも心配するわ。もし僕に娘ができて、あんな男と付き合い始めたら、猛反対しまくって、さぞかし娘に嫌われることでしょう。ちょっと僕の目には胡散臭すぎるわ。と思ったらミュージシャンなんだね。なるほど。自分の娘の彼氏がミュージシャン、って親からしたらだいぶ嫌だろうなー……まぁ僕にはそもそも娘などできるはずがないので心配無用だが。話を戻しますと、いろいろな物事の行方が気になりすぎて、ステージ上ほぼ放心状態で歌ってる娘。そんな歌い方してたら歌詞忘れるでー、とライブの行方がどうなっちゃうのかハラハラしてまうのは、昔ミュージシャンやってた僕に、まだうっすら残っている当時の緊張感のためか。とのんきに見ていたら、その後にジェットコースターのような恐ろしいシーンが……最後の15分はめちゃくちゃ怖かった! ジャンルがスリラーに真っ逆さま! すさまじい迫力、緊張感。やっぱ世界で一番怖い存在は人間だ、と思わせてくれたドゥニ メノーシェの顔マジ怖いし、頑健そうな体躯が、病的なほど威圧的なオーラを漂わせている。そして、息子ジュリアンを演じるトーマス ジオリアという俳優さん、すごいです。子どもでこれだけの演技ができるってどんな成熟した人間なんでしょうかって思うくらいすごい。お風呂場のシーンとか本当に心から恐怖に震えてるとしか思えない。お母さんを演じるレア ドリュッケールの恐怖心や、ドゥニ メノーシェの凄まじい迫力があったからというのもあるだろうけど、それにしてもこんなに幼い子にこんな演技ができるとは。人間の感情に対して相当深い理解を持っているにちがいない。天才。そして、最後の隣人の演出も素晴らしかった。いままさに我々が暮らしている生活空間の中で起こっててもおかしくない恐ろしさ、それを目の当たりにする婆さん。インシンクせずにはいられない。さて、フランスという国は、実はフェミニシッドが非常に多いことで知られており、3日にひとりのペースで尊い命がDVによって奪われているというニュースに、世界中の人々が衝撃を受けたことが記憶に新しい。また世界では、4人にひとりがDVの被害を受けているとされている。それがいったいどんな感じで起こってるのか、この映画を見ると、そのじわじわ迫りくる緊張感がリアルに感じられます。ただ、リアルであるが故に、前半が少々スローなんですよね。もうちょっとだけ画に引きつけるものがあったらよかったな。あと、最後になりますが、大変気になったのが、トイレの床に直接カバンを置いてたの。僕個人としては、どれだけトイレの床がきれいでもそこにカバンは置きたくないと思ってしまうんやけど、みんなそんなに気にしてないのかな……それともフランスのトイレがめちゃめちゃきれいなのか。それでも抵抗あるわ。
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