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パンとバスと2度目のハツコイのkoyaのレビュー・感想・評価

4.5
この映画は大作ではなく、ささやかな映画ですけれど、登場人物たちの気持のゆれを繊細に描いている点、とても好感度が高いのです。

主人公のふみが、美大を出てもバイト先だったパン屋で働き続け、絵は辞めてしまったこと。
彼氏がいてプロポーズされても「ずっと好きでいるかどうか自信がない」とためらってしまい別れてしまうこと。
勤務先のパン屋の帰り道、パンを食べながらバスの洗車を見るのが好きなこと。

普通だったら......という事をふみはさりげなく、黙ってかわしています。その目の前に現れた中学の時の初恋の人、たもつ。

いつも洗車を見学しているバスの運転手をしていて、離婚歴ありで子どもがいる。そして、別れたものの元妻を忘れられない、再婚したいと考えている。

映画に強引さがなく、ずっと同じ空気が流れているようで「恋のときめき」や「告白の緊張」などという緩急を逆になくしてしまっています。

ふみは、たもつに惹かれていくけれど、事情を知りなんとも複雑な気持。

ふみを演じた深川麻衣が、あまり表情を動かさず淡々としているのがいいです。情に流されることなく自分を持っているのもいい。

中学の時の同級生さとみ(伊藤紗莉)も幸せな結婚をしたものの、ふみの事が好きだった同性愛者。しかし今は子供をもうけ、踏み込んだことはしない。

この3人の距離感がとても良くて、ベタベタせず仲良くて、たもつにつきあおうか、と言われても
「いいよ、でも好きにならないで」
とすらりと言い切るふみがとても自分をしっかり持っていて、情緒が安定している女の子で、妙に安心して見ていられるのです。
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