otomisan

ニューヨーク 最高の訳あり物件のotomisanのレビュー・感想・評価

4.0
 "Forgetaboutnick"を0.8秒で言い切ると相当怒ったように響くだろう。しかしそれは見かけのこと、もしくは昔話。昔とはできたてほやほやの元妻のもとに薹が立った元元妻が乗り込んできたから。しかも生活のため。これはいやだろうなー。おまけにその娘と孫までやってきて。
 と、思ったらこの二人というか1vs.3というか1vs.1+1+0.5というのかが、悋気の火の玉臨界状態でもなく、財産分与で冷戦黒々でもなく、どこか元妻同士極性が合っているというか、近すぎると大反発するけれど立派に交渉可能、話せばわかる状態でいる。おおむね。
 このけったいな状況を強いる元夫はというと、孫のようなモデルにのぼせていて取材に耐えない状況であろうか要所でしか現れないが大丈夫、物語の重点は対夫問題より女自身の生き方問題にあると示されている。
 そこでおもしろいのは、ウエルカムスペースの「下品な絵」を外すか残すか。あれは用途(スペースも絵も)や趣味(悪い。が、絵なんて用途次第)の問題以上に2所帯1軒のあのロフトを仕切る元妻の意志の表われ、お金も要るのにお蔭で売れないコブ付き状態という即ち「訳あり」な当物件の「舵取りはワタシ」を象徴する旗印のように見えるから可笑しい。
 この金が要る元妻はトップモデルから服飾ビジネスに挑む仕事人間で家族は元夫だけ、対する元元妻は文学博士、ドイツ渡りの準ばあちゃん世代の元教師、家族は息子(他出)と娘、そしてその娘は理学士(植物学)、シングルマザー、息子ひとりの香料の商品アドバイザー。三者三様の人間観社会観でありながら意外に衝突が少ない事に離婚がもたらす家族の問題を注目する観衆には非現実的と見えるだろうが、監督はそこに論題を置いておらず、離婚を梃子にこの3種類の女性の女性個人としてのワークライフバランスの物語を示したいもののようだ。
 結果、娘組は元妻との香水事業立ち上げを進めたが、いっときは元元妻(母)に預けた息子を取って拡大する事業からは手を引き、ビジネスが幅を利かす異様な街NYも去りベルリンに戻ってゆく。ここに欧州のドイツのベルリンの隠然たる存在感が際立つのだろうがどん詰まり日本では解りようもない。
 残る2妻はアッと驚く2対1での撚り戻しを果たすが、マンガ的この展開も多くの観衆の不興を買うところだろう。なるほど、これも取って付けた話で、元妻+元元妻を2で割った的元妻の変身に元夫が惚れ直したなんて馬鹿な話である。しかし、見方を変えれば、4年で離婚の危機を迎えるのが普通の男女関係である。そもそも結婚自体、愛情で満たして終生連れ添って過ごす事を強いるのは「神」以外に誰がいるだろう?現実には傍への体裁もあろうし、夫に「捨てられる」事の被害意識の深甚さもあろうけれど、それを乗り越えられる人ならこんな風に乗り越えて行けるかもと示したのがこの話というところじゃないだろうか。「神」の強要する荷を下ろして、「愛」の名のもとの精神的受苦を考え直す時代を迎えてはいまいか、そののち夫婦とは何か、男女とはどう添い合えるものかと問い直す事に何の不都合があるだろう?
 そうした意味でこの話はおとぎ話的に面白いと思う。しかし、そんな事が叶うような人間とはどんな者たちか、想像するとおそらく多くの観衆には自身とは釣り合わない姿が思い浮かぶ事だろう、現にこの通り、NYの熱い事業家と文学博士と植物学のスペシャリストである。これがかのベルリンで受けるかどうか分からないが、東京以下の極東ではいかにも受けの悪そうな気がする。
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