滝和也

千と千尋の神隠しの滝和也のレビュー・感想・評価

千と千尋の神隠し(2001年製作の映画)
4.0
黄泉平坂駆け抜けて
すべてのものに命やどり
神宿る世界へ…。
命知り、世を知り、
少女はおとなへの階段を
昇る…。

日本興業史に燦然と輝く金字塔…

「千と千尋の神隠し」

これまた見てなかった(笑)アンカーシリーズにしようかな。

ルイス・キャロルのアリス、オズの魔法使いに八百万の神と日本神話や黄泉平坂を加えたエンタメ・スペクタクルの王様、宮崎駿の真骨頂。

想像を超える凄まじい世界観に幾重にも貼られた暗喩・伏線が素晴らしく、圧倒されますね。オズやアリスに並ぶ名作になり得ています。

父母と超えた先の世界には八百万の神が垢を流す湯屋が聳え、湯婆婆が支配するその店で働かざる得なくなる10才の少女千尋。名を奪われ、千となった彼女は、豚となった父母を助けるため、懸命に働き、生きようとする。

湯屋って…まぁ江戸時代の風俗店ですな(笑)大人の1番汚いと言うか根源的な場所を選ぶあたりはブラックジョークが効いてますね。しかも父母は人質と言うか豚質(笑) しかもハクは禿だし…。大人の世界の象徴でしょうか。

名を奪われ個を捨てさせられて働かざる得ない。歯車の如き存在もそうですね。(社畜の私が言うのもなんですが(笑))働かざる者食うべからず、挨拶しないかい!とか、大人の世界≒掟ですからね。また一人でやり遂げなければいけないのも大人の人生というものでしょう。

その中で一つ一つ懸命に苦難を乗り越える千。そして愛するものハクが出来てより大人へと強く成長する姿をスペクタクルと共に描いているのは流石にエンタメの帝王宮崎駿です。腐れ神様、顔ナシの下りは正に慈母性の発露を見ますし、迫力が半端なく、ハクとのランデブーシーンも正に空への憧憬を持つ宮崎駿ならではでしょうか。

腐れ神様は自然破壊の風刺でしたし、神様が宿りし世界や自然はトトロやもののけ姫、湯婆婆や銭婆婆は魔女の宅急便、高低を交えた回廊やスカイアクション的なものはラピュタやカリオストロとここ迄のジブリの集大成的なものを見ることができますね。

湯婆婆は大人の代表ですかね。夏木マリさんの声が素晴らしい。ラピュタの初井言栄さんに負けてない(^^) キャラが過保護で家族と、仲悪くて(笑)大人。

顔ナシくんも悪いものの代表かな。顔の見えない大衆、若者で。働いてないけど金あって、思い通りにならないと暴れまくるし(笑)ストーカー気質だし(笑)。大人になりきれない人。ただ彼にも必要とされる所にがあって救いもありましたんでそこ良かった。(笑)

恐怖や不快極まる父母とのオープニングも大人の姿なんですが、そこから始めることで子供の純粋さや大人の辛さが際立ち、清濁合わせ飲む人生につながっていますね。その人生には愛する人や良き人もいるわけで。りんさんはコナンのモンスリーからの鉄火肌の強気な女性の流れで、良い方ですし、文太さんが旨すぎるカマじぃのやさしさやグッドラックのセリフには吹きましたよ(笑)

ただ!難しいことばかり考えるより、その世界観を楽しむ方が良い気もします。台湾のある街をヒントに作られた湯屋や風景。水木しげるを超えてしまったのではないかと思われるキャラクター造形。モブキャラがカエルに皆似てるのは恐怖や隔絶の象徴かな(親指姫の)ってまた考えてる(笑)

今作は、それまでの作品の様にストレートに伝えてくるテーマから、少し伝え方が変わって来ており、映画祭で受賞するのもわかる気がします。大人の伝え方と言うか、子供には成長を肌で感じさせるエンタメですし、大人には考えさせる面白さがあって、素晴らしい。ただ何故これが歴代興行収入トップかはイマイチわからない(笑) ジブリ待望の新作だったし、大人も子供も真摯に楽しめる作品には間違いないですが(笑)
滝和也

滝和也