こたつむり

欲望のこたつむりのレビュー・感想・評価

欲望(1966年製作の映画)
4.1
若きカメラマンの衝動、或いは創作意欲における架空的存在アプローチ。

某映画の元ネタと聞いて。
ドキドキしながら鑑賞しましたが…。
いやぁ。面白かったです。
物語の方向性が掴めない序盤は辛かったのですが、創作意欲の発露を描いていることに気付いてからは、もう前のめり。主人公の一挙手一投足がスリリングで堪らないのです。しかも、その興奮を散らすかのような静寂は見事の一言。静と動のアップダウンにグワングワンと振り回されるのです。

しかも、中盤からのサスペンス的展開は。
鳥肌が立つほどにドキリとし、物語がどちらに転がるのか鼻息荒く見守れば、いつしか全ての道筋を肯定している懐の深さに思わず「うひひひ」とイヤラしい声が漏れ、脳汁がズビズバと溢れんばかり。ぐふふ。これ、最高ですわ。

ただ、これは。
鑑賞前から身構えていたのが功を奏したのかもしれません。何せ、アントニオーニ監督の作品には触れたことが無かったですし、事前の評判は「盗撮」とか「変態」とか「不条理」とか、あまり良い印象ではないものばかりでしたからね。期待値が地面スレスレだったのです。

まあ、確かに。
主人公は身を隠しながら撮影していましたし、若き女性のストッキングを脱がせば下着を付けていないし。「盗撮」とか「変態」とかは解らないでもないのですが…でも「不条理」については違うと思いましたよ。 創作者の“衝動”として捉えれば物語としては筋道が立っていますからね。

これは邦題が誤解を与えている側面もありますね。主人公の自由奔放な部分を『欲望』として捉えてしまうと、道理が通らないように見えるのでしょう。ただ、どちらかと言うと、創作における“衝動”は『欲望』と言うよりも“本能”のほうが近いと思います。だから、邦題は “写真を引き伸ばす”という意味の原題『Blow up』そのままでも良かったと思うのですが…。

まあ、そんなわけで。
人を選ぶ作品であるのは間違いないと思います。でも、主人公に共感を抱く素地があれば、脳汁が鼻から耳から垂れんばかりにアドレナリンが放出される傑作だと思います。それと、背景の小物一つ一つに拘りを感じるのもオシャレでしたよ。

【補足或いは修正】
感想を書いた後に知りましたが…。
創作者の衝動は…世の中では“不条理なもの”として捉えられているのですね…。言葉って…難しいですなあ。
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