ベルサイユ製麺

サリュート7のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

サリュート7(2017年製作の映画)
3.6
実話ナッ…んですって!全く存じませんでした。
1985年。ソ連の宇宙ステーション、サリュート7号がポスッとデブリの直撃を受け制御不能に。このまま落下して大惨事?ひょっとして核ミサイル搭載してんじゃない?と世界中(特に軌道上にあるアメリカ)が戦々恐々とする中、ソ連政府の導き出した解決法は、“新たに宇宙船を打ち上げ、ステーションと目測でドッキングさせちゃう。(or撃墜)”
しかし、カオス回転するステーションとのドッキングはほぼ無理ゲーで、どのパイロットもシミュレータをクリア出来ない。消去法的に白羽の矢が立てられたのは、かつて緊急の船外活動中に「光を見た」「天使だと思う」とか言ったせいで、あーもう乗るのやめようねー、お疲れさまーとなっていた凄腕の元パイロットのフョードロフと、そのダチでエンジニアのヴィクトルだった…。

ロシア、いやソ連、めちゃ渋い!!

もしこれ、ハリウッドで作ってたら、フョードロフ→テッド(チャニング・テイタム)に、ヴィクトル→サンチョス(マイケル・ペーニャ)の凸凹コンビが、宇宙ステーションの中でバーベキューして「窓どうやって開けるんだ?」とか、船外活動にTシャツ一枚で出て、「めちゃ寒い!肌で暖めてくれ…。」とか、無重力で変なものがフワフワしてたり、そんな馬鹿映画になってるに決まってる。しかしロシア産ハードSFに限ってそんな馬鹿は許されない。なにしろ、人より熊が多くて、蛇口からウォッカが出る国なのだから!
…とは言っても実際のフョードロフとヴィクトルが堅物なのかと言えばそんな事も無くて、「行けそうな気がする」ってサッサとドッキング成功しちゃったり、船内にアルコール持ち込んだりするお茶目さんでも有るのです。真面目なだけではホントのホントにヤベー問題には対処出来ないんだろうね。

わたくし普段なら“狭い空間にふたりぼっち”とか“制御不能のドッキング”とかで直ぐに脳内が腐るところのなのですが、今作は不思議と腐れません。前々から思ってましたが、ロシアってなんか凄い防腐効果ある気がしますね…。全然萌えて来ませんよ。バレエダンサーやフィギュアスケーターも美し過ぎて寧ろ煩悩が溶けてしまいます。美しい美しい。ありがたやありがたや。…おっと、話が軌道を外れました(←ド下手)

ストーリーは実話ナッ…んだとしてもそれなりに盛ってはいると思われます。ロシア政府関係筋の協力を得てるようですし、少なからずプロパガンダ作品的な側面もあると思います。だからって、この作品の価値は全く目減りしないと思いますね。『月に囚われた男』『ゼログラビティ』以降の見え過ぎちゃうスーパーファインな宇宙描写も、絶妙な構成も、クセの強すぎるロシア歌謡も、超イイ顔のロシア人俳優たちの抑制の効いた演技も、全てが渾然一体となってエンターテイメント的に盛り上げてくれます!単純に楽しい。
何より、物語の核になる、男たちの熱い血潮滾る捨て身の踠きに、心がどうしようもなく動かされたのは紛れも無い事実!この文読みにくいな!
…なんだか、理屈は分からないのですけど、この映画やってるロシアの劇場、客席を埋めるロシアの人々の事を想像すると、胸が熱くなるのですよね。
ロシアの宇宙開発、ちょっと調べただけで死屍累々のとんでもない暗黒の歴史が存在するわけですが、倫理的な事はともかくとして、彼らは誇りを胸に堂々と散ったのだと思います。少なくとも、片道燃料で「バンザイ」つって、ただ犬死し(←ライカとかけました)に行くようなのとは根本的に意味が違うよ…。

ご覧になられた方には印象深いと思われるシーン。生き物は乗組員2人きりだと思われた船内の、何処か隙間に紛れて入り込んでいたと思わしき漆黒の嫌われ者“G”。そのGが、無重力空間をクルクルカサカサ漂ってるの見て「Zero-G空間にGがいる!」と興奮してしまいましたよ!この時ばかりは日本人で得したと思った次第。
もとい、差別の無い、自由で豊かな国、日本に生まれて良かったです!なんちゃって。ゲラゲラ〜。

…しかしそうか、Gは前澤社長より先に宇宙に行ってたんだなぁ…。