LalaーMukuーMerry

1987、ある闘いの真実のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

1987、ある闘いの真実(2017年製作の映画)
4.7
お隣の韓国が民主化されたのは1987年だ。この年10月に憲法改正をすることが確定し、12月には国民の直接投票による大統領選挙が初めて行われ、盧泰愚(ノ・テウ)が初代大統領に就任した。そして翌年のソウル・オリンピックで韓国の新時代をアピールした。
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このあたりは当時ニュースで盛んに取り上げられたから私にも記憶があるのだけれど、その前の出来事、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領時代のことは全く知らない。知らないのも当然だということが最近分かった。独裁の時代には新聞は自由な報道ができなかったから、私たちは知りようがなかったのだ。
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これは問題の年1987年に韓国で一体何があったのかを教えてくれるとても優れた作品。1980年の光州事件を描いた「タクシー運転手」と合わせて見るのが良いでしょう。光州事件は全斗煥(チョン・ドゥファン)がクーデターで権力を握った直後に起きた事件、こちらは全斗煥が権力を失う直前の出来事。反共の名を借りた人権無視のひどい弾圧、その弾圧の事実を隠蔽しようとする公権力。独裁政権の本質は何も変わっていない。
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民主化運動の中で犠牲になった大学生の名を冠する二つの事件
・パク・ジョンチョル事件:拷問死(冤罪)の隠蔽を新聞が暴露(1月)
・イ・ハンニョル事件:デモ中に催涙弾の直撃を受け1か月後に死亡(6月)
二つの死をきっかけに大きな潮流が生まれた・・・
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硬派な印象をうけるかもしれませんが、エンタメとしても大変面白い作品です。権力側の男(対共捜査部長)、その部下の警察官たち、反権力側の民主運動家、体制の中でも正々堂々と正義を貫こうとする人(検事)、体制の中で秘かに反権力側の人を助ける人(看守)、秘密を暴こうとする新聞記者・・・、登場人物のリアリティが半端なく、強烈に引き込まれます。そして二つの事件を結び付ける唯一の架空の人物ヨニ(=キム・テリ)。始めは民主化運動など興味のないノン・ポリ女子大学生だけど、身近な人に累が及ぶに至って、運動に身を投じるようになる彼女は韓国の一般市民の心情を代表するキャラですね。彼女の存在がストーリー展開を大変おもしろくしています。それにしても、これがほんの30年前の出来事だと思うと信じられない思い・・・
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こういう作品を見ると韓国に尊敬の念を抱く気持ちが芽生えます。少なくとも日本では民主主義を勝ち取ったという歴史はなく、アメリカによって与えられただけだから・・・。
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だが、これらの出来事は韓国の黒歴史だから表には出さないでおこうとする風潮が今の韓国にはあるらしい。監督(チャン・ジュナン)によれば、李明博(イ・ミョンバク)~朴槿恵(パク・クネ)政権時代には文化人のブラックリストがつくられていて、政権の意向に合わない話をする人たちには、不利益を与えたり巧妙な弾圧が行われていたようだ。だからこの作品をつくること自体、勇気がいることだったという。・・・ホンマか???
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でも心配ご無用、本作は韓国では観客動員数700万超の大ヒット。この作品によって民主化の歴史をありのままに捉える目が韓国の中に根づいたと信じたい。