Oto

万引き家族のOtoのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.0
「自分にとっての幸せを他人に押し付けて、良いことをした気になっている人」(劇中で言う池脇千鶴や高良健吾)を批判的に描いている映画なのに、見もしないで、あるいは部分的な解釈で「犯罪擁護だ!日本の評判を落とすな!」とか騒いでる奴らは監督の思う壺だよね。
そもそも物語の中での悪を許せないような人が何故フィクションを見ようとするのか…リアルな世界でリアルな提案をするんならドキュメンタリーで良いじゃん…正しさだけを描いて間違いを否定するのは不可能でしょ...

それで言うと、あき(松岡茉優)の元家族も、一般的に「幸せな家庭」と言われて思い浮かべるような家庭に疑問を抱かせる作りとして凄く上手。初枝(樹木希林)が金の為に受け入れた説は明確に否定できるので、家族を奪われたことの復讐と考えると自然。その強さはあきにも伝わって、妹(さやか)を偽名に使っている。柴田家は夫婦も親子も、利害関係を超えてた絆があった。

「家族」の関係が、小出しで明らかになっていく構成だから、全然退屈しなかった。池松壮亮も自傷という共通点を持つ存在としてだけでなく、父母の関係のフリとしても効果的だった。
監督も言ってたけど、食事とか背中撮りとか台詞とか仕草とか、細部まで丁寧に作り込んでるのも良さ。「普通じゃない家族」が花火を見たり鍋を突いたり海で遊んだり、「普通の家族」のような暮らしをすることで、幸せがより一層際立って見えた。

撮影視点も面白かった(俯瞰の空き地とか)。特に松岡茉優は鏡越しの視点が、りんが髪を切った後の家のシーンと勤務先のシーンとで対比的に使われていて好き。どちらも「同じ苦しみを共有する(相手の中に自分の鏡像を見つける)ことで絆が生まれた」シーンだから鏡なのかな。

カットの切れ目がハッキリしてた印象。樹木希林の死期だけは、海岸での描写がワザとらしくて気づいてしまったし、スイミーの引用も少し安っぽいけど、意外で緊張感のある展開が多くて面白かった(夫婦の営みもバス追っかけも逃走も)。一番成長したのは父(リリー)なのかもと思ったり。
細野さんの音楽も良かった〜(自分ははっぴいえんどが好きだけど)

後半しょうたの中で「万引き」の認識が変わっていくのがわかった。駄菓子屋での敗北も理由の一つかもしれないし、「わざと盗んだ」の真偽は分からないけど、妹を助けて父に気を遣って、男してめちゃかっこよかったです。元の家族へは戻らないかなと思う(松岡茉優も)。りんちゃんも含めて、希望を感じる終わり方で、すごく悲しい気持ちにはならなかった。
虐待も売春も年金も大事な問題ではあるけど、もっと根源的な訴えをしたいんだろうなと感じた。

個人的MVPは安藤サクラかな〜、演技があまりにもリアルで「正しい親」がどちらか考えさせるには効果覿面。あの涙と表情は他の人にはできない…。子役含め、役者は全員素晴らしかったけど。
急に叫び出す過剰演技も、美男美女だけの三角関係も、しょぼいCGもない、こういう作品が日本映画として世界に知れ渡るのすごく嬉しいことだな〜是枝作品あまり観てないから色々観たくなった。



解説や対談を聴いて気づいたのは、
・セックスしてる下には死体が埋まってるという生死の対比。海街Diaryの冒頭&ラストと同じ。入れ歯と乳歯も
・花火を映さない(見えない)のは、花火が見えなくても彼らの心は美しいから?
・長屋落語と似ている、フロリダプロジェクトと似ている(花火、ゲップ、風呂)
・ドキュメンタリー制作時代からテーマが一貫してる。「自明じゃない家族」と「悪人ではない犯罪者」。今までの集大成
・撮影は桐島や横道世之介の近藤さん
・パルムドールは受賞で呼ばれる前に気付く仕組みになってる
・蝉は本当に女の子が見つけた。「急に元気だなー!」と思ってたけど、普段とかメイキング観てるとああいう子なんだよね
・海から撮影スタートしたけど、樹木希林の「綺麗ね」、蜜柑の異様な食べ方もアドリブ。松岡茉優の鼻を褒めたり、安藤サクラの肉体の魅力的な撮り方はそこに合わせた後付け
・台詞ではなく仕草で伝える工夫が不動産屋のハンカチとお茶の埃
・子供には方法論が通用しないので試行錯誤を繰り返す。共演者の大人に任せる事もある。「背中」の撮り方は大事で、幻滅するリリーの走り姿の背中も同じ法則
・食べ物は料理、片付けが大事。何を食べるかより誰と食べるか

同意だったのは、
・松岡茉優とリリーの間の、距離感ゆえに感じる性的な緊張感(自分も感じた)
・実際に成長する子役。髪を切る時の椅子に絡めた脚
・泣きや叫びがない。成長故に反省と諦めがあるから
・ラストのベランダは外の世界を知った後なので振り出しではない
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