keith中村

センセイ君主のkeith中村のレビュー・感想・評価

センセイ君主(2018年製作の映画)
4.8
 今日、仕事帰りに「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観たんで、そっちのレビューをしようかな、と思ったんだけれど、これがかなりの大物だったし、帰ってきてまだ映画1本くらいなら観る時間はあったので、いったん落ち着こうと考え、最近いろんな配信サービスに出てきてた本作を「軽い映画だろうし、クールダウンするにはちょうどいいか」程度の気持ちで鑑賞。
 そしたら、これが笑っちゃうくらい「プロミシング・ヤング・ウーマン」とは正反対の映画だった。
 でも、こっちはこっちでレビューしたくなっちゃう魅力を持った作品だったのでついついレビューを書きます。
 
 まずは、和製スクリューボール・コメディの傑作と言いたい。賛辞を送りたい。
 やっぱ映画は先入観持ってみちゃいけません。いや、先入観持って観てた私が「傑作」なんて表現しちゃうんだから、本作は相当に恐ろしい作品。
 
 月川翔監督作品は、「君膵」が最初だった。
 原作の評判のよさに、「泣いてやるぞ~」という涙活気分全開で劇場に行ったんだけれど、「あれ?」ってなって帰ってきた。全然泣けなかったのですね。
 まあでも、これで監督名を憶えたんだけど、「何だよ、その芸名くさい気障な名前は」などと失礼にも思ってしまった。監督ごめんなさい。
 だから、監督名で追いかけるという観方はしてこなかった。
 で、しばらくして「響」を観たら、これがよかった。エンドロールではじめて月川監督だと知って、「へえ、やるじゃん!」と思った。
 監督、毎度毎度感想が偉そうで、ごめんなさい。
 「響」は、芸術家の人格と芸術家の作品に関する考察や論文のような作品で、これは敷衍すると横山やすしのような破滅型芸人や、無頼派作家、最近ならピー瀧さんのように「逮捕されたミュージシャンの作品が配信や店頭から消える問題」、はてはワインスタイン問題まで大きな半径の円に拡大できるテーマを持った良作だった。
 
 でもって本作。
 ここ数年、ここまで笑った作品はあったろうか、という狂気のコメディ。
 オーバーアクト、説明ゼリフ、漫画チックな演出(ま、本作は漫画原作なんで仕方がないけど)という私の大嫌いなものしか画面に映らない。
 だけど、滅茶苦茶ハマって、滅茶苦茶笑った。
 監督知らずに観てたら、最後に月川監督の名前が。
 参りました。ちょっと今後は監督として注目させていただきます。
 
 なんつっても、本作は「80年くらい遅れてきたスクリューボール・コメディ」の傑作なんです。
 それは浜辺美波ちゃんの突き抜けた演技によるところが半分以上を占めている。
 私が知ってる限り、美波ちゃんって「あの花」のめんまちゃんだし、「君膵」だよね?
 清純で儚げ。
 まあ、後には「賭ケグルイ」とか「屍人荘」でのコメディ演技も観て、それがきっちりできる女優さんだってわかったんだけど、映画としては本作のほうが前で、かつ最強に狂った役を演じきってる。
 
 もちろん、演じた美波ちゃんも偉いんだけど、その演技プランをはじめ、全部を統括してるのが月川監督ですよね。
 
 さっき「80年くらい遅れてきたスクリューボール・コメディ」って書いたけど、本作がすごいのはそれがちゃんとアップデートされてること。
 それはセンセイこと、竹内涼真くんの「受け」の演技。
 スクリューボール・コメディの主役男女って、普通は両方とも狂ってるんですわ。
 それが本作では「女性=動=狂気」VS「男性=静=理性」の対比になってる。
 漫才でいうなら、大袈裟なボケと冷静なツッコミ。この落差でもって、より笑いが増幅される仕組み。
 もちろん原作がそういう構造なんだろうし、その意味では原作が面白いから映画も面白いってことにもなるんだけれど、それでも映画にする際にどんな匙加減のどんなテンションの作品にするのかを決定するのは監督なんで、やはり月川監督が凄いということになります。
 
 「大変よくできました」スタンプは、完璧なる予定調和で、想像通りの使い方を以てオチに至るわけですが、ここも「なんだ、予想通りかよ!」じゃなくって、「待ってました!」って気持ちになりました。
 よっ! 千両役者。そして、千両監督。
 最後のクレジットも可愛くてよかった。
 
 ちょっと大袈裟だけど、キャプラとかスタージェスとかホークスと同列に論じていい作品だと、個人的に猛烈に高評価しています。