ミア

グッバイ、リチャード!のミアのレビュー・感想・評価

グッバイ、リチャード!(2018年製作の映画)
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余命を宣告された大学教授が自分の人生を考え直す物語、というとよくある話に聞こえるが、これを私生活のスキャンダルにより俳優として崖っぷちにいるジョニーデップがやることによって色々メタ的な構造になっている

この作品でまず目立つのは同性愛の描写である
娘とその彼女、主人公リチャードとその同僚で親友のピーター
ついでに言えばリチャードは教え子の男子学生ともそういう行為に至っている

ジョニーデップといえばジャック・スパロウをゲイの役だと思っていたというゴシップが書かれたりもした
そんな彼に、はっきりゲイだとは言わせないものの、レズビアンの娘を受け入れたりピーターと親密なスキンシップをする役を演じさせるのは確信犯的である

さらにリチャードは余命を知ってから今まで演じていた良き夫をやめ、奔放な振る舞いをとる
バーの店員を光の速さで口説いてトイレでセックス、酒やマリファナを摂取しながらの講義

こうした描写が昨今リベラルな態度をとりがちなアメリカの批評家からは好まれず、本作の評価はrottentomateでかなり低いが、しかしジョニーデップに奔放な役を演じさせることで、むしろ死を突きつけられどん底にいる男の切実さが描かれていると思う
彼のDVを擁護するつもりはないが、何が彼をそのような行為に至らせたのか、私たちは考えてみてもいいのかもしれない

死に直面した時、妻や娘に別れを告げて犬だけ連れて旅に出る
その行為は特に昨今のポリティカルコレクトネス的な観点から見れば無責任に見えるかもしれない
しかし良き夫、良き父、良き社会人として生きることもまた、父権社会が男性に課す抑圧でもある
死を実感して、やっとその抑圧から解放されたリチャードが向かうのは、死までの瞬間を好きに生きる自分自身の生である
どのように死ぬかを選ぶこと、それは死を受け入れることでもあり、また死へのささやかな抵抗でもあるのだ
ミア

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