ミア

ミッドナイトスワンのミアのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
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素晴らしかった

トランスジェンダーの役をシス男性が演じることに批判があったことは知っていたが、実際に鑑賞してこれは草彅剛でなければいけなかったと確信した

まず、彼の顔は骨張っていて極めて男性的で、女装感が拭えない外見になっている
しかし考えてみれば、性自認が女性なのに、どうしようもなく男性的な体格や骨格で生まれてきたという人はいるだろう
どんなに化粧を上手くしようがホルモン剤を打とうが変えられない見た目上の男性らしさ
手術をするお金がなく、男性から女性への過渡的な身体を持った人の葛藤が、草彅剛が演じることでより際立つのである(なんで私ばっかりこんな目に!というセリフがより響く)

さらに、外見の男性らしさとは裏腹に、彼はアイドルでもある
男性と女性どちらが外見で評価や消費をされているか色々な見方があると思うが、アイドルは性別に関係なくまさにその見た目を商品にしている職業である
アイドルとしてトップを走り続けてきたSMAPの草彅剛だからこそ、外見と自己の葛藤をめぐるこの難役をこなせたのではないだろうか

本作に向けられる批判には、トランスジェンダーを悲劇的な存在に位置づけ偏見を助長するという意見もある
しかしながら、本作を観れば、なぜ凪沙がああしなければいけなかったのか観客は考えるだろう

女性で居続けるなら、お金を集めるためには性風俗に就く必要がある
それが無理なら外見を男性に偽り、肉体労働に従事する
ここにジェンダーと労働をめぐる問題が浮かび上がる

そしてラストに繋がる最も重要な問題は、戸籍の問題である
一果のお母さんになるために、凪沙はあそこまでしなければいけなかった
もし国の制度が、社会が、今と違えば、凪沙はあのような結末を迎えずに済んだかもしれない
凪沙の悲劇は観客の感動を呼び起こすためのポルノではない
観客に問いかけるための、映画からのメッセージなのだ

しかし本作の真骨頂はこうしたトランスジェンダーをめぐる問題ではない
世の中は、なりたいものになれず諦めなければいけない人や辛い思いをする人のほうが大多数である
それはどれだけ社会が変わろうが関係がない
しかし、そのような果たせなかった人々の思いは、未来に託すことができる
その象徴が一果なのだ
だから、これは希望の物語なのだ
親が、友達が、先生が、未来を担う才能に希望のバトンを渡す物語なのだ
ミア

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