Oto

ガチ星のOtoのレビュー・感想・評価

ガチ星(2018年製作の映画)
2.9
苦手な映画だ...。人物が物語の都合で動かされていてそれこそ「駒」のように見えた。

CMのような短い断片の羅列で、どの関係性も掘り下げられることがないから、長い目でみたストーリーが見えない。ほとんど会話を交わしていない期待の新人や後輩との戦いを感動物語みたいに提示されてもどう見ていいのかわからないし、彼の立場で考えた時にスターの後ろに連なって練習するなんてことは絶対選ばないし、ラストレースでわざわざビリからのろのろスタートして演出するようなこともしないし、感動を作り出すために都合よく主人公が使われてしまっている。

ラストレースのそれぞれのバックグラウンドのインサートに関しても、唐突過ぎて悪い意味で驚いた。「みんな問題を抱えて乗り越えています」っていうとってつけたようなテーマの提示で終わっていいのだろうか、どうしてそこに至るまで他のキャラを単なる記号として描いてきたのか。終盤で出てきた謎の悪役も登場させた意図がわからない、ワイルダーが言っていた「第三幕で新しい要素を加えてはいけない」というシナリオの法則をすごく実感した。目標も敵もコロコロ変わっていく、その場しのぎの展開。

主人公があまりにも応援できないのも、葛藤が分散しすぎているからだと思う。元野球選手としての有名税は問題として成立しているけど、息子と妻のことに関しては完全に自業自得でしかないし、そもそも競輪で成功したい動機が「息子に見栄を張りたい」という自己中な欲望でしかないから全然共感できない。年齢による衰えって普遍的な複雑な葛藤ではないので共感層が限られるし、わざわざ他人から「もう競輪しかない」って言ってもらわないと気付かないなんてことないでしょ。『空白』や『劇場』なんかも同じくクズ主人公と言えるだろうけど、彼らにある「でも憎めいないな〜」という要素が欠けている。『百円の恋』で言う、廃棄弁当を意地でも渡そうとするみたいな優しさの描写とか、主体的な「生き生きとした他者に対する強い憧れ」みたいな欲望を感じない。

浮気で傷つけた店主とその妻、きつく当たった母、約束を破って嘘をついた息子、競輪学校で喧嘩を売られた二人...どの関係性も全く回収されていないし、それらを描きっぱなしで新しい要素をどんどん出しているので置いていかれた。一番描いて欲しい努力の描写を飛ばして無事プロになりました、だから家族も許してくれました、よっしゃー!っていうのはあまりに主人公に対して甘すぎると思う。周りの人物が生きた人物になっていなくて、息子や母は言いなり、悪役は試練のために用意された存在。パワハラコーチも、プロになれたからあれはあれでいい過去だったね、で済むレベルじゃないんだよな。

別に成長はなくてもいいけど、変化のドラマはないとダメで、そこが『ロッキー』との大きな違いだなぁと思う。落ちこぼれの描写が図式的な本作と比べると、あちらは「勝ったのに野次を飛ばされる」という一工夫があるし、「世界チャンピオンと戦う」というミッションがミッドポイントからずっと一貫していてコロコロ変わらない。

目覚ましを隠す描写をわざわざ映していたり、玄関に貼られた「金返せ」とか、母親がスクラップブック作っていたとか、どこかで見たような「型」の継ぎ接ぎでしかないから、役者が下手に見えてしまう演出をしている。わかった!って急にはしゃぎ出すのはキャラが破綻しているし、「パン嫌いです」と伝える芝居も急に感情的な悪役に変わっていて統一感がない。後輩だって何も感謝するようなことしてもらってないのにずっとありがたっているから、すごく幼稚なキャラとして描かれている。揺れ動く内面みたいな複雑な心情を誰も持っていない、すごく単純化された人物ばかり。苦悩の描写として「嘔吐」と「涙」しかパターンがないからそれを繰り返されても退屈。

手ぶれで感情伝えたりとか、クロスカッティングで息切れをつないだり、ラストシーンで回想を挟んできたり、観客の感情をあまりにも指定しすぎているのだと思う。みる人の想像力をあまり信頼していないというか、説明をしすぎている。

『セッション』と同じく、自分のスポ根へのアレルギーが過剰に出ているのかもしれないし、実際の主演俳優の人生を重ねているのも知っているし、『戦力外通告の男たち』とかみてるとリアルな世界なんだと思うけれど、そもそも一つ一つのシーンが「断片」になってしまっていて、映画という形態を選ぶ必要があったのか疑問。どうせならコントに寄せてしまった方がよかったのではないか。せっかく華丸さんが登場している割に笑えるシーンもなかった。

もっと人物と葛藤を絞って、大事なシーンに時間をかけて描いて欲しかった。CM監督としては一流なのかもだけど、脚本の問題なのか、テレビドラマを編集してるからなのか、期待外れだった。絶賛している人が割といて人の好みってわからないもんだなぁ…と思う。

監督のCMも、コアアイデアがわかりづらくて、むしろ本筋から外れたディテールで笑わせるトンマナなのが作風かもしれない。
https://youtu.be/2ry41RIkqHA
これは分かりやすいけど、いまだとコンプラやばそう。
https://youtu.be/fCkOZyRYVrI

そもそも価値観として、苦労なんて出来るだけしないに越したことはないと思って生きてるけど、血と汗と涙の結晶にだけ価値があるという考えの人も割といるのかなと思った。運動や仕事などでそういう苦労を強いられてきた人には刺さるのかもしれない、自分は逃げてしまった。

良かったところをあげると、轢かれるときの表情と音は痛々しくて印象に残ったのと、母親の稀に見る実在感。競輪って頭突きとかしていいんだね。
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