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イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語のalmosteverydayのレビュー・感想・評価

3.5
梅雨入り前から何度も何度も公式サイトの劇場情報を覗いては「やっぱり東北には来てくれない…」としょんぼりしてたので、仙台での公開がアナウンスされた際はそれはそれはもう嬉しかったもんでした。ずっと楽しみにしてた。

冒頭は76年のマンチェスター、画面いっぱいに濁流がぶつかり合う海峡もしくは関門と思しき眺め。若き日のモリッシー≠スティーヴンがそっくりそのままイメージ通りにプライド高く皮肉たっぷりのあの調子で「ここはあの世よりマシ?」と独白する場面から始まります。

幼馴染の女の子と地元のハコに足を運んでは、常連らしきバンドをこき下ろしNMEに投稿するスティーヴン。口ばっかりで自分からは動き出さない彼を幼馴染も見限り、しぶしぶ働き始めた職場では遅刻そしてサボり三昧。この辺りはもうね、いけませんね。かつて若者だったはずの自分と大人になってしまった今の自分がそれぞれ脳内でやいやい言い始めるもんだからもう、うるさくてうるさくてどうしようもない。「わかる〜めっちゃ仕事ダルい〜」と「仕事なめんなクソガキいいい!」が同時に脳内を飛び交ってるというか、どちらにも寄り切らないままずっとふわふわ観ていられるというか。それはきっと、後のモリッシーがそれなりにいい歳でありながらああいう感じに仕上がったから、こちらも何となくそういうもんだと決めてかかっているからある意味解き放たれていると言えるのではないか、という気がしています。勝手に。

演出としては、全編にわたり水の描写が重要な役割を担っていました。冒頭の濁流。水面を揺らすさざ波。地面を濡らす雨。窓を叩く雷雨。コップから溢れる水。そのどれもが彼の心象を物語っていて、作品としてのまとまりをもたらしているように思います。とある契機を経て再び「ここはあの世よりマシ?」と同じ台詞が反復されるシーンが特にぐっときました。まったく違う台詞に聞こえる。切実さがまるで違ってた。新たな一歩を思わせる終わりかたがとても好みで、この続きを観たいと思わせてくれるあたりがすごく良かったです。

主演のジャック・ロウデンはどちらかと言えばモリッシーよりグレアム・コクソンやリヴァース・クオモに近い面差しで、率直に言って少々顔面の圧が弱いというより男前すぎやしないか…?と思ったのですが、アップになると眉間に深めの皺がくっきり刻まれていて尚且つ顎がうっすら割れているのを確認できたのでそこはさすがのキャスティング…!と認識を改めた次第であります。つるんとした顎のモリッシーなんて想像できない。そうでしょ?ねえねえ。
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