たまたま見かけたフライヤーで「あれ、この俳優さんどこかで見たことあるよね…?」と記憶の底をさらってみたらLETOでした。キノのヴィクトル・ツォイを演じてた、長身痩躯で肩まで伸ばしたくるくるの髪が印象的だったあのひと!いかにも兵役を経てきた感のある分厚い胸板をどどーんと見せつけられ面食らいましたが、この涼しげな眼差しは確かにあのときのユ・テオさん…!おひさしぶりです!本作では24歳から36歳までを一気に12年すっ飛ばして演じておられるんですが、同じ店で同じメンツで同じようにバカっぽい飲み方してる辺りがめちゃくちゃあるあるってかむしろ愛らしく見えてきました。これが2020年代における「どこにでもいそうな韓国人男性」ってことなんですよね、おそらく。
初恋相手の人となりはもうちょっと込み入っていて、映画監督と画家の娘として12歳でカナダに移住し戯曲家となった経歴の持ち主。これが生き馬の目を抜くNYにありがちな上昇志向バリバリの女だったらだいぶキツかったと思うんですけど、静かに野心を燃やし続ける芯の強い女性として描かれてたのがよかったです。これ、テストで負けて泣いたという幼少期のエピソードが効いてると思う。鼻っ柱の強さといかにも少女らしい心細さを感じさせるというか。終盤にも夜の風景として挿入されていた幼少期の二人の別れのシーンが示唆的でしたよね。ひとりは階段を上って新しい世界へ向かい、もうひとりはそれまでと地続きの日常を歩き続けるっていう。
悪いやつが一人も出てこない本作にあってとりわけいいやつとして描かれるのが彼女の夫で、言葉を生業としているだけあって二人の会話シーンはどれも見応えがありました。心の機微を察してくれと相手に丸投げするのではなく、ひとつずつ丁寧に言語化する心地よさというか真っ当さというか、地に足のついた大人の誠実さを感じましたね…!大人どうしの対話だ…!
仮にこれがもしどちらか一方でも一途に相手を思い続けてたらちょっとしたホラー味帯びてくるとこですけど、年齢相応に各々出会いも付き合いもあってよろしくやってた辺りがだいぶ現実的。自分にとっての運命の人(色恋に限らず)を大事に慈しみたくなる良作でした。すごく好き。