ホイットモア大統領

バイスのホイットモア大統領のレビュー・感想・評価

バイス(2018年製作の映画)
4.3
2019/5/5 フォーラム仙台にて鑑賞。

「9・11」は、物心ついてから起きた始めての世界的大事件。だから当時、ニュースで見ていたブッシュ大統領、パウエル&ライス両国務長官らはすぐに「似てる!」と笑えたが、主役のディック・チェイニー副大統領は、本作を観るまでは名前すら知らない人でした。

本作はそんな彼の酒浸りの大学時代から、イラク戦争を仕掛けたとされる00年代前半までを描く。
この人、副大統領就任前までは平凡な男と言われて、その目立たないように無愛想かつ低い声でボソボソと話す姿が実は天職だったのだろうと思う。この辺はまるでヒトラーの経歴を彷彿とさせる。

また、彼が実権を握る上で妻リン・チェイニーの存在も大きいかと。多くは描かれてはないが、互いのマイナス面を埋めるための二人三脚もこの “怪物” を生み出す要因に違いない。まさに “影の影の黒幕”。
女性では天下が取れないとわかるや否や、自身の信念を夫に託し、権力のためには時に演説を買って出る姿は、近年の女性の自立を象徴していると共に、その善の側面ばかり強調しがちな現代の映画界への警鐘なのかもしれないと考えたり。

そして、信念といえばラストのセリフ。
やはりこういう判断ができる人は、ここまで頑なになれる人でなければならないのだろう。それが、“アメリカ国民のため” なのか、“自身の権力のため” なのか、観客に委ねる余地こそ、チェイニー本人への配慮と、本作を傑作たらしめている要因だと思いました。

しかし、拷問、監視、でっち上げ、一元的執政府システム…、国を私物化し、何十万何百万という死者を出している現実は、最早ブラック・コメディという枠をはみ出たホラー。『スノーデン』を見た今ではその恐怖が痛切に感じられた。
ましてやISISの真実のように、彼なき今でも影響が続いているのだから “Vice President” は最早、影に隠れた無視できる職種ではない。

加えて、賃上げと長時間労働の解放に伴う政治活動への無関心は、ここ日本でも当てはまること。かくいう自分も「『ワイルド・スピード』の新作が楽しみ」な1人笑
我が国もあの時裏では実は…。なんて邦画ができないことを信じたい。いや、むしろ作るべきかも。

てか、『グリーンブック』といい、ここに来て00年代初頭に活躍したコメディ監督の躍進が凄い!途中で ”映画を終わらせる” センスとか最高過ぎでしょ!