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カツベン!のtetsuのレビュー・感想・評価

カツベン!(2019年製作の映画)
4.0
TOHOシネマズ1ヶ月フリーパスで鑑賞。

幼い頃、活動弁士による無声映画の語りを観て育った俊太郎と梅子。
離ればなれになった彼らは、活動弁士と映画女優という形で夢を追っていた。
ある時、再会した二人は様々な事件に巻き込まれるが...。

いや~、最高でした!!
名の知れた監督が撮る「映画」についての映画って、どう転んでも、監督の映画愛が滲み出てしまい、名作にならざるを得ないと思っているのですが、本作も例に漏れず。

マーティン・スコセッシが『ヒューゴ...』でリュミエール兄弟やメリエスに、物語や映像の撮り方で敬意を表していたように、本作は周防正行監督が当時の映画(=活動写真)に敬意を表して作った作品。
かつての映画を現在の撮り方で再現するように、アクションシーンやコメディシーンをサイレント映画風におおげさな動きでみせたり、井上真央さん演じるキャラクターがいかにも当時の映画女優っぽい格好をしていたりと、随所に滲み出る映画愛が心地よかったです。

また、「困難な状況に陥った時、アイデアで何とか切り抜けていく」という王道の物語展開も良かった!
中盤、成田凌扮する俊太郎が舞台小屋の壇上で大ピンチに陥るんですが、そっからの展開なんて最高すぎて、自然に涙が出ていましたね。こういう、どうしようもない状態に陥ったキャラクターが、必死に頑張るも上手くいかず、その時...、っていうのが、心に刺さりすぎて、改めて自分の涙腺を自覚しました。笑



このあと、ネタバレ
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ところで、本作には、中盤、主人公が憧れの弁士から自分の地位を揺らがす衝撃な発言をくらいます。

「完成された映画に説明をつけるのは間違いではないか?」

確かに劇中では、成田凌扮する俊太郎が海外の作品に低俗な語りを加えることで、大衆向けに作り変える場面があり、活動弁士の素晴らしさを描く一方で、その批判的な部分も描いていました。

映画を「娯楽」として観客に送り出すのか、それとも「芸術」として観客に送り出すのか...。
これは、ある種、監督の映画論にも通ずる部分だと思うのですが、そんな本作が迎えるクライマックスが中々に衝撃的で、かなり興味深かったです。

「もう、過去の映画の寄せ集めで、映画を作っちゃえ!」っていうね...。笑

もう、作品本来の意図を伝えるとか、そんなのを飛び越して、新たに映画を作ってしまえばいいじゃんという。笑
僕は「映画」というのは監督自身が作り出した「映画」があって、その先に観客がそれぞれの解釈で作り出す自分だけの「映画」があると思っているのですが、そこにも通ずる驚きの解決策に、ちょっと唖然としました...。
(あと、その展開って、なんとなく『ニューシネマパラダイス』に通ずるものがありましたね...。)


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というわけで、意外にもしっかりと"けじめ"をつけるラストには、複雑な感情を抱かないでもない本作。
場内には、おじいちゃんとおばぁちゃんしかおらず、「活弁」という題材と「周防正行監督」というポイントに対する若者受けの悪さを実感しましたが、ぜひ、映画に興味があったり、出演者に興味がある若い人にこそ観てほしい一作でした!
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