ひろぽん

半世界のひろぽんのレビュー・感想・評価

半世界(2018年製作の映画)
3.6
三重県で備長炭の製炭を生業とする紘は、ある日、中学からの旧友で自衛隊員として海外派遣されていた瑛介と再会を果たす。瑛介は妻子と別れ1人で故郷に戻ってきた。同級生で中古車販売をしている光彦に声をかけ、3人は十数年ぶりに故郷の三重県の田舎で酒を酌み交わす。それぞれ岐路に立つ幼なじみ3人が再開したことにより人生を見直し、仕事や家族に向き合っていく物語。


父親の跡を継ぎ、炭焼き職人として山村で備長炭を製炭する鉱。妻子と別れて帰郷した元自衛隊員の瑛介。父親と2人で中古車販売をしている光彦。

3人が偶然にも再会を果たしたことにより、それぞれが現実の人生と向き合うことになる。

仕事には真剣に向き合うが、息子には無関心で軽蔑されている鉱。39歳で中学生の息子がいながらもセックスはするし、家計がきつくこれからどうして行くかという金銭面の話も真っ向からする何でも言い合える仲なので、夫婦仲は決して悪いわけじゃない。

ただ、息子がイジメにあっているのにイジメなんかないと言い切ったり、警察に万引きで捕まった時も1人で用事があるからという息子の背中を追わなかったりと、心配はしているのかもしれないが薄情な部分が目立ってしまう。そういった態度は息子に見透かされているけど、不器用で向き合い方が分からず戸惑っているようにも見える。

そんなギクシャクした父子の間に、帰郷してきた瑛介が介入したことにより潤滑油となって少しずつ関係が良好な方へ向かっていく。

父の友人である瑛介とご飯を食べに行く明は、何も知らなかった父のこと知れて少し嬉しそうだし、元自衛隊の瑛介に護身術を教えて貰いイジメてくる奴らに対抗しようとする術を学んでいる姿も男になっていく過程なんだろうなと思った。

明のイジメっ子たちへの逆襲は、瑛介に教わった護身術じゃなくて、鉱の備長炭を使い戦っていく所が良かった。


瑛介は自衛隊の頃の部下がコンバット・ストレスで亡くなってしまった事を自分の責任だと重く受け止めたことや、戦争で子どもと戦わなければならず深く心に傷を負ったことで帰郷していた。

光彦の中古車販売店がチンピラと揉めている時に、助けに入った瑛介が怒りを制御できずに1人で複数人を相手に死の間際まで追い込んだシーンは印象深かった。過去の体験による深い闇と怒り、狂気を感じる場面だった。


鉱は息子との関係や伸び悩む仕事、瑛介はやるせない世界と自分への怒り、光彦は愛する人がいないことと、3人とも異なった問題を抱え悩んでいる。お前たちは世間しか知らず、世界を知らないと瑛介は言うけれど、田舎町で炭職人として生きようが、自衛隊として海外に派遣されようが、そこには境界なんてなく、全てが「世界」なんだろう。

人生80年として、39歳というのは人生の折り返し地点に立つ年齢。その分、悩み事も多いだろう。過去に思い描いていた人生とは違った人生を歩んでいるのもしれないが、それもまた人生。反対の世界を生きるのも人生。「半世界」というタイトルの意味は様々な捉え方ができる深い言葉なんだと思う。

光彦が言う、幼なじみ3人の関係を正三角形じゃなく二等辺三角形に例える話は最後まで一貫していて作品を通して感じられるから好き。

稲垣吾郎と池脇千鶴の夫婦役は、どちらも熟練夫婦のように見える自然体で役者として素晴らしかった。その辺に居そうな家族として描かれていたため、他人の家庭を覗き見ているような感覚になる。

長谷川博己や渋川清彦のメインで登場するキャストたちが熟練の俳優なので皆演技が半端なく良かった。

終盤はジェットコースターの様な展開だったが、明の顔つきが変わるラストまで温かさのある穏やかな空気感だった。初乃と明の母子での会話で締める終わり方がとても好き。

俺たちの時代はこうだったとか、中学生に酒を飲ませようとする昭和のノリがあまり好きじゃない。特に田舎の父親世代のこういう発言が嫌いで、前回鑑賞した時はそれが気になってあまり好きじゃなかった。久しぶりに鑑賞してみると悪くはなかった。鉱より明の年齢に近いから明目線でどうしても見てしまう。40歳くらいになって観てみるとまた違った印象になるのかもしれない。

地味な作品だが、見とれてしまうくらい火の映像が綺麗で心が落ち着く。久しぶりに帰ってきた友人に必要ないと言われてもお節介をやく友人関係が希薄な現代社会において必要なことなんだなとしみじみ感じた。
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