のん

空母いぶきののんのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
4.4
きわめてリアルなシミュレーションムービー


百田尚樹が「三流役者がえらそうに」とツイッターで息巻いていて、作品本来と関係ないところで話題を集めた本作だが、劇中での佐藤浩市の演技をみてそう感じたのなら作家としての才能は三流以下だろう。
百田の作品および映像化作品に罪ははないが、ネトウヨ三流コピペ作家がこれ以上炎上商法を続けるならば、このまま灰になるまで燃え尽きてほしい。


『空母いぶき』は日本の領海内に武装集団が侵攻した緊迫の24時間を描いており、一応近未来の設定にはなっているが、そのきわめてリアルなシュミレーションの数々が映画最大の見所といえる。


とかくこの手の映画となると、映像的な見せ場を重視するあまりに現実的なやりとりから飛躍した描写がみられることが多いが、本作は自衛隊員の活躍をプロフェッショナルとしあくまで冷静に画面に刻んでいる。


さらに、この作品が優れている点は、政治サイドと現場サイドにそれぞれ立場の異なる人をあえて置くことで、現実的なパワーバランスを表現しているところだろう。

象徴的なのは常に落ち着いた姿勢で時に冷徹な判断を下していく西島秀俊演じる空母いぶきの秋津艦長と、敵も味方関係なくどんな小さな被害も出すまいと奔走する佐々木蔵之介が演じた新波副長のやり取りだ。

この2人が衝突し、緊急事態に対して決断を下していくわけだが、自衛隊による「武力の行使」というものがいかに重たい権限であるかを説得力ある形で描いていく。これはたぶん日本の映画で今まで克明に描かれたことはなく、極めて画期的な描写である。


一部で「首相を揶揄している」と意味不明な批判を受けた佐藤浩市の役どころだが、観てもいない人たちの声がいかに的外れであるかを教えてくれる。重大な決断を迫られるシーンでの屈指の名演技をみて今の首相と結びつける人はいないだろう。それは佐藤浩市とチンパンジーを結びつけるようなもので、佐藤浩市とチンパンジーに失礼である。


「本田翼のシーンは必要なのか」と疑問を抱いてはいけない。後半にきちんと見せ場があるし、それを言うならこの映画は中井貴一のただただ無駄遣いだろう。


極めて現実に裏打ちされた設定だけに、ストーリーの終着地点が単なる理想では?という疑問も残るが、フィクションが現実に問いかける理想の在り方なのだと好意的に受け止めたい。
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