ジェイコブ

ライトハウスのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

ライトハウス(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

19世紀後半。ニューイングランドにある孤島に年老いたベテラン灯台守のトーマスと若き新人灯台守のウィンズローが着任した。4週間を二人きりで務めるにも関わらず、ウィンズローは命令ばかりで面倒な事は全て自分に押し付けてくるトーマスに対し、怒りを募らせ、二人はいがみ合ってばかりであった。ある日の晩、ウィンズローはトーマスから「海鳥を傷つけようとした」事を咎められ、激しく叱責される。訳を聞くウィンズローにトーマスは、「不吉の前兆だ」と語る……。
近年注目を浴びているA24制作のホラー映画で、監督は同社の「ウィッチ」で監督を務めたロバート・エガース。白黒にトーキー映画のような1:19:1の画面は、見る者すらも絶海の孤島に閉じ込められたかのような窮屈な気持ちにさせられる。さらに「ウィッチ」でも使われた、忍び寄ってくるような不気味な音響演出を合わせることで、視覚と聴覚双方で訴えかけてくる恐怖を感じられる。
本作は1801年にイギリスのウェールズで起きた「スモールズ灯台の悲劇」という実話をベースに作られている。任務についていた2人の灯台守の内1人は事故で死に、もう1人は殺人を疑われるのを恐れて迎えの船が来るまで死体を放置して仕事を続けたという、正に事実は小説より奇なりの顛末。仕事を続けた灯台守は精神が錯乱したこともあり、この事件を受け、灯台守は3人体制という決まりになったとか。
本作は神話や民話、様々な文学などからの引用がなされているため、知らずに見ると半分程度しか理解できないと言われている。人魚は、アイルランドに伝わる嵐の予兆とされるメロウの伝説や、ギリシャ神話のセイレーンから。光を求めて上に行き、階段を転げ落ちて死んだトーマスはギリシャ神話におけるイカロスの象徴であるなど、確かに知って見るのと知らずに見るのとでは感じ方が変わってくる。また、灯台が男性器の象徴であると聞き、過去に人魚姫モデルの超有名アニメ映画のポスターに映る灯台が、いたずらで男性器にすり替えられたという事実か嘘か分からない話を思い出した笑
個人的解釈としてはギリシャ神話の他に、この事件が起きた時代背景もまた、本作を紐解く上でカギとなるのではと思った。その当時は産業革命真っ只中で、繁栄する上流階級の人々がいる一方で、劣悪な労働環境、低賃金で働かされる労働者が多かった。ウィンズローが雨の日も風の日も石炭を運ぶ姿は、当時の労働者階級の置かれた厳しい状況を表すものであり、それに対してトーマスは同じ労働者階級にも関わらず、部下のウィンズローをこき使い、高みの見物をしている。部下を見下す事でしか自分のアイデンティティを保てないトーマスは、資本主義社会の暗部を象徴する存在なのかもしれない。ラストでトーマスを殺してまで灯台の灯りを求めたウィンズロー。それは自分もトーマスの位置に取って変わろうとするが故に許されざる罪を犯し、人生という名の階段を転げ落ちていった……とも見て取れた。
本作は閉鎖的な空間で起きた悪循環が巻き起こした悲劇であり、追い詰められた人間の狂気を描いている。まあ、狭い空間にしかも嫌味な上司のオッサンと二人きりなんて、一日過ごすとて気が狂いそうになるのにそれが4週間続くなんて想像を絶する。そう考えれば、ウィンズローがああなった顛末も自然と納得できてしまう。本作は実際の事件を調べ、さらに元ネタを知って観れば知らずに観に行くよりも楽しめるが、人によってはネタバレにもなるので、注意が必要。
エンディングで流れる船乗りの歌がまた皮肉めいているのが良い。