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教誨師のHKのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
4.0
日本のドラマや映画において名バイプレイヤーとして活躍した俳優、大杉漣さんの最初のプロデュース作品にして、映画最後の主演作。監督は「休暇」で脚本を務めた佐向大。

教誨師とは死刑が確定し、執行するのをただ待つ受刑者に対し、キリスト教に改心させ神の赦しを与える役割を果たす。そのため民間人ながら唯一死刑囚と面会することができるのである。

この映画は、六人の死刑囚とそんな彼らに一人ずつ対話しながら神の教えを説き伏せる牧師、佐伯の人生を描いている。ほぼ全編が密室劇になっている。

6人それぞれ人間らしく、自分のしてしまったことを後悔する人間。開き直っている人間など人それぞれである。しかし、彼らもまた人間である。ただ単純に過ちを犯してしまっただけの人間、根っからのクズな人間。そして主人公の佐伯もまた過ちを犯した。

この映画で伝えたいことは、ただたんに彼らもまた人であるということである。我々と変わらない人であるということである。

どこで過ちを犯すのか、衝動的か、計画的か。そんなの誰も分からない。誰もがあそこに行ってしまう可能性を考えるべき。当事者意識で考えるべき。

悲劇の装置としての死刑が映画で見られることはいくらでもある。「ダンサーインザダーク」「グリーンマイル」などがそうだ。しかしそういう映画では架けられる側の経緯まで描いてしまっているから、ある程度同情できてしまう。だが、実際に死刑になっている人間に対して、一般市民は同情できるだろうか。

彼らに恨みの矛先を向けていいのは、殺された被害者のみである。私たちは彼らを異物として見るのではなく、同じ人間として死に架けられることを意識して見なければならない。それができてこそこの映画を深みを持って考えることができる。

ホームレスのおじさんが書き残した言葉に、その真意が詰まっている。

そして最後に、大杉漣さん。改めてお悔やみ申し上げます。お疲れ様でした。
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