sugar708

ピータールー マンチェスターの悲劇/ピータールーの虐殺のsugar708のレビュー・感想・評価

4.0
ピータールーの虐殺から200年。イギリス民主主義の原点とも云われているこの事件を、私は正直に申し上げると知りませんでした。

勉強が疎かでお恥ずかしい限りですが、この時代といえば、フランス革命、ナポレオン、ワーテルローの戦いがフューチャーされることが多く、そちらの記憶しか持ち合わせておらず。。。

巨匠マイク・リー監督、ガーディアン紙創刊のきっかけになったとの触れ込みで迷わず拝見したのですが、実に素晴らしい映画でした。

まず、冒頭の裁判シーンでコートを盗んだだけで絞首刑になる男性を見て、この時代がいかに腐敗しているかが分かり驚愕します。

作品自体は様々な登場人物たちを丁寧かつ細やかに描写し、テンポも現代映画にしては緩やかなので非常に分かりやすく、教科書のような映画だと思います。カメラワークもFIXを多用し、討論のシーンが非常に多いのでどこか舞台のようにも思える作品です。

個人的に印象的だったのは、登場人物たちのその熱量です。選挙権を得ようとする男性たちは勿論ですが、それを支える女性たち、更には権力者たちも自分達の利権を守るために、ほぼ全ての人物が良くも悪くも必死に見えました。

しかし、その中で摂政王太子だけがどこか他人事というのも印象的です。

また、200年前という時代を感じたのが「女性たちが自分たちではなく、男性たちの選挙権を主張している」点でした。この時代の女性たちにとっては、自分たちの選挙権のことなどまだ考えることすら出来ない時代だったのだなと。

この事件があったにも関わらず、普通選挙権を得られるまでに1世紀以上かかったことを考えると、本当に長く辛い道のりだったのだろうなと思います。

そして、200年後に生きる我々ですが、状況は良くなったのかといえば必ずしもそうではないと思います。一部の権力者が政財界で主権を握ったり、弱者の声を握り潰すという点では、この映画は現代にも通じる話なのでしょう。

それでも、当時の人たちよりはるかに恵まれている我々は、当たり前のように選挙権を得ていることの意味を今一度、深く考えなければいけないのだと思います。選挙の度に投票率が過去最低を更新してしまう日本も、劇中で我が子の未来を想う母親のように100年後の未来のために。
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