NAO141

ビリーブ 未来への大逆転のNAO141のレビュー・感想・評価

ビリーブ 未来への大逆転(2018年製作の映画)
4.2
〈RBG〉
名前の頭文字で呼ばれ、米国で多くの方から尊敬された女性最高裁判事がいる。
彼女の名前はルース・ベイダー・ギンズバーグ。1970年代、まだ男性優位だった時代から男女平等を目指して闘い続けた弁護士であり、その後最高裁判事にまでなり、87歳で亡くなるまで現役で活躍し続けた女性である。名前の頭文字で呼ばれる米国の有名な人物といえば〈JFK(ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ)〉第35代大統領が思い浮かぶが、彼女も米国では親しみを込めて頭文字で呼ばれ、亡くなった今も絶大な人気を誇る。本作はそんな〈RBG〉が男女平等裁判で史上初の勝利を勝ち取るまでを描くが、彼女がどんな家庭環境で育ち、どんな夫婦生活だったのかも描かれている点がポイント。特に夫マーティンとの協力関係は素晴らしく、彼女がここまで信念を持って活動出来たのは、この夫の支えがあったからなんだろうな、と思えてくる。素晴らしい関係性だね。

本作、というか彼女の活躍を通して感じるのは、彼女の闘いは〈女性のため〉という以上に〈多様性を認める社会の実現のため〉であったのだという点。物語の冒頭は彼女がハーバード大学の階段を上がるシーンから始まる。そしてラストは法廷への階段を上がるシーンで終わる(ここで本人が登場するのだが、それがまた秀逸だなぁ)。このシーンは対になっているわけだが、彼女が〈前へ前へ〉と常に歩み続けてきた姿を象徴するシーンだと思う。

法律を遵守することは正しい事ではあると思うが、50年・100年という単位で捉えれば現代社会にそぐわない部分も出てくる。〈変化すべき時〉というものは訪れるもので、その時に〈前へ進み続けるか〉〈文化・伝統として変化を拒むか〉。我々が今当たり前だと思っている事が当たり前ではなかった時代は存在した。どんな歴史や行動を通して今の社会が存在するのか。どんな時代であっても変化を起こすのはいつも1人の人物の信念と行動から。我々も変化を拒むことなく、〈前へ前へ〉と進み続けたいね!

〈RBG〉亡き今、米国はどう変わっていくのか、世界が再び注目している。米国というのはリベラル派(民主党:オバマ、バイデン)と保守派(共和党:ブッシュ、トランプ)が常に対立している国でもある。妊娠中絶や銃規制など重大な問題については憲法判断に委ねられ、その時代の趨勢を最高裁が決定してきたという側面がある。最高裁判事は〈良識の長老〉等とも呼ばれ、これまではリベラル・保守・中間である意味拮抗していた形でバランスを保っていたとも言えるが、トランプ政権になってからはこのバランスが崩れた。最高裁判事の指名は5分の3の賛同(60%)が必要であったが、トランプ政権時に過半数(50%)によって承認できるようにルールが変更されている。さらに大統領任期の最後の1年で判事に欠員が出た場合は、選挙後の大統領にその指名を譲るという不文律のようなものが存在したが、トランプ政権はここも破壊(?)した。〈RBG〉が亡くなってすぐに、トランプ政権は保守派の判事を任命している(ちなみにRBGはリベラル派)。つまり、それまでバランスが保たれていた最高裁判事の数はトランプ政権時に大きく保守派に傾いた事になる。トランプ政権のこのルール変更は良心に基づくと言われた慣習を破棄することから〈核オプション〉とまで呼ばれた程だ。米国で社会問題になっている様々な案件は今後どのような判決が出されるのか、そしてその事で米国社会はどう変わっていくのか。〈RBG〉の死は米国の1つの時代の転換期としても大きな事だったように思う。
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