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存在のない子供たちの消費者のレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.9
・ジャンル
ドラマ/社会派/悲劇

・あらすじ
舞台はレバノンの首都、ベイルート
貧民街出身の12歳の少年、ゼイン
人を刺した罪で収監中の彼は法廷に立っていた
自分を産んだ両親を訴えたい、という一言から犯行に至るまでの暮らしについてゼインは語り始める…

住んでいるボロ家の家賃を滞納するほど困窮する両親の下で幼い妹達と生活していたゼイン
彼は出生証明書が無いだけでなく両親さえ正確な年齢や誕生日を知らないという環境で生きてきた
学校に通う事も父に反対され、一家の食事の世話と引き換えに1歳下の妹、サハルを狙う家主、アサードの営む食料品店での労働や妹達とジュースや処方薬を売り捌く日々
やがてサハルは両親によって花嫁としてアサードに売り渡され激怒したゼインは家を出る
当てもなく仕事を探しながら街を歩き回るゼイン
やがてそんな姿を見かねたシングルマザーのエチオピア移民、ティゲストに引き取られ彼女の息子、ヨナスの世話をしながら共に暮らし始める
両親からは受けられなかった愛情を受け、ティゲストになつくゼイン
しかししばらくすると彼女は外出したっきり姿を消してしまう
まだ赤ん坊のヨナスを連れゼインはティゲストを探し続けるが一向に彼女は見つからない
それもそのはず、彼女は滞在許可証の期限を切らしていた為に逮捕されていたのだ
とうとうティゲストを見つける事を諦めたゼインは街で出会ったストリートチルドレンでシリア系移民の少女、メイスーンと共にスウェーデンへ発とうと再び処方薬の売買に手を染めるが…

・感想
世界各地で蔓延る貧困を救いのない生々しい展開で描いていくストーリーがとにかく観ていて苦しい作品だった
万引きや窃盗、薬物売買で生計を立て乳飲子を1人世話するゼインの姿はもちろん食料が尽きてからの砂糖をかけた氷で飢えを凌いだり、身分証の偽造屋であるアスプロに良い様に騙されてしまったり…
それによって憎んできた両親と同じ事をしてしまうというのがまた…
あまりに辛い出来事ばかりが続くものの恐らく各地にゼインの様な子供達が実在する事を思うと余計悲しくなる

サハルを妊娠させて死に追いやってしまったアサードを刺して少年刑務所に収監されてからの描写も重い
慰問にやって来るミュージシャン達、同房の囚人達の礼拝、児童虐待を扱うテレビ番組…
それら全てに対してほとんど反応を見せないゼインを含む囚人達
法廷での「世話できないなら産むな」という発言
現実的にメディアで問題を取り扱う事が重要なのはラストの展開を見ても分かる様に確かだし、貧困を理由に出産を禁じる訳にも行かない
どうするのが正解なのか、考えさせられるものの答えは見つからない

そうした話の後に身分証明書を作る為、写真撮影をするゼインの作り笑顔も印象的
日本に住んでいるとこの様な問題は身近に感じられない部分がある
それでも近頃報道される事が多い様に難民資格がなかなか降りない現実や入管における虐待じみた扱い、生活保護の厳しい基準、こども食堂など決して他人事ではない問題が日本にもある
文明社会の恩恵を受けて暮らす身として日頃から考えなければいけない事が山積みであるという事実と向き合わなければならないと改めて感じさせられた
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